とんだ呪縛

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とんだ呪縛

 だから、その柔らかくもしっとりとした、そんでもってアルコールの香る唇に触れたのは、計算ずくだ。  酔ってボーダーが曖昧になってると、多少のセクハラも許されるのは知ってるし、例え俺が相手でも、日ごろの浮き名の鍛錬の賜物もあって、触れたくらいのキスじゃあ、あの目を───傷ついたっていう目を、しないから。 「………」  だけど、想定外だろ。  絆から、キスをしかけてくるなんてのは。  ただ、押し付けられただけのもんだったけど。  酔って半分寝かけのお前には気まぐれの、戯れなのかもしれないけど。  俺には……。 「わり。うまそうだったから……つい。……腹減ったかも。ごはん、まだ……?」  また肩口に埋められた絆の声が、俺の中でこもる。  なんでこいつは、いとも簡単に俺の心を掴んでまき散らすんだろう。 「……ひ…との…口をなんの食いもんだと思うんだっ」 「……たらこ」 「はあ?んな分厚くねえしっ」  ……ひょっとしたらこいつ、俺の気持ちに気づいてんじゃないだろうな?  ちょっとずつ餌まいて、俺を捉えておくつもり……とか? 「んなことしてたらなぁっ! 襲っちまうぞっ!!!」 「……だな。良かったわ、俺……男…で」 「はあ?」 「女だったら……今ヤられて…ポイ…だ……怖い怖い……」 「あのなあ! おまえっ」 「な、……やま……と……俺を……ひとりに……しないで…な…」  小さな子供のような話し方は、酔ってるからだ。  ”寒いの嫌”  ”どこにもいかないで”  ”ひとりにしないで”  とんだ呪縛だよ。  安らかな寝息に零れるのは、溜息と愚痴だ。 「ほんと……むかつく奴だ」    
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