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拳の血
俺が混乱してる間にも、俺に両腕を拘束された絆は狂ったみたいに足を延ばしてオガを蹴ろうとしてるし、周囲には人が集まるしで、それこその大騒ぎに、このホールの管理者風なおばちゃんとお兄さんが血相変えて慌ててやってきた。
「あらあらあら、まあ、どうしたの!?」
「あ、いや、ちょっとしたことなんで……」
「離せっつってんだろっ! クソがっ」
「ちょ、絆、落ち着けって」
「まあ、血が出てるじゃないのっ!!」
耳をビリビリ破くようなかな切り声。
「だから私は反対だったのよっ」
怒りの足踏みでもしかねないおばさんに、まあまあというように手を差し出したお兄さん。
体を起こそうとしていたオガを支えて、俺たちを見まわした。
「君たち、何があったんだ?」
腕の中でなおも暴れる絆は、怒りに紅潮させた顔を泣きそうに歪ませる。
その拳にはオガの血がついていた。
「こいつのせいで……こいつのせいで」
絞り出すような絆の声に、オガの男らしい眉がギュッと寄せられる。
その様子に、なんとなく、オガは殴られるのを納得してるんじゃないかって思った。
「トマが……事故ったって」
「は?」
浮かぶのは、すっかり体つきが男らしくなり、艶やかさを滲ませるようになったトマの姿。
「はあ?」
二度見ならぬ二度聞きだ。
「え? テンぱっちゃったとかそゆのじゃなくて」
「トマの乗ってた単車に、信号無視のミニバンが突っ込んできて、意識、ないって……」
絆の声は震えてて、それは冗談の類じゃないってことの証明で。
「はあ!?」
三度聞きになったのは、仕方のない話だろう。
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