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怒りと挑発
「オンナって……」
「ちょっととりあえず、おまえらも中入って」
小林君はオガの肩を抱えると、野次馬からオガを隠すようにしてルチアの控室になってる小部屋に運び入れた。
4枚の鏡がある8畳ほどの部屋の中には誰もいなくて、小林君は会議用テーブルの横のパイプ椅子に腑抜けになったオガを座らせると、俺がドアを閉めたのを確認しておもむろに口をひらいた。
「オガにしろ、キョウにしろ、俺もほんとにバカだと思う。けど、山登が言ったように、何もオガが車でぶつけたわけじゃない。信号無視の、赤の他人が車がぶつけた交通事故なんだよ。ライブのことも、もともとはキョウの弟のとこが出れなくなったから俺らが急きょ出ることにしたんだ。
言い方は悪いけど、俺は、本音を言えば格下のトラバの代わりなんてのは本意じゃなかった。ただ、今回ドタキャンにしたことでトラバが顔つぶすのはかわいそうだからってキョウが言いだして、オガもボーカルと知らない仲じゃないからって賛成したから、まあキョウの帰省記念にして出てもいいと思ったんだ。
チバさん……さっきの、ここの職員の人にも世話になってたしな。それが、弟が事故にあって、オガが責任感じて、ライブには出れないって言いだしたから、俺が無理やり引っ張ってきた。
そうだろ? 言いだしっぺのキョウは病院だし、俺らまで出ないってなったら、それこそチバさんにも迷惑かかる。直接の加害者でもないオガが病院に行ってどうなるわけじゃない。だから、ライブをこなすのがせめてもの詫びだと、俺は思った。ダメか?」
「ダメとかダメじゃないとかじゃねえだろっ!! そもそも小林君は関係ないっ!!」
「俺が関係ないなら、絆、お前だって関係ないだろ。そんな無関係のナヨっちいチビに、ただ黙って殴られてやってるくらい、こいつは反省してんだ。ま、俺は、こいつがそこまで悪いことしたとは思ってないけどな」
小林君の挑発するような言葉に、無理やりパイプ椅子に座らせてた絆の体がバネみたいに跳ねあがった。
「ふざけっ──」
「ちょ、まて、黙ってろ、絆っ!」
俺は慌てて絆の肩をつかみ、再び椅子に押し付けて、オガに目を向けた。
「悪いけど、俺は全く話が見えない」
昨日キョウの家で会ったばっかりのトマ。
乱パの会場を見て呆れたような目を向けてはきたけど、その後はまあいつも通りだった。
事故とか聞いても当然なんの実感もわかないから、冷静なうちに事実確認をするべきだろ。
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