バイクの惨状

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バイクの惨状

 トラバのボーカルを担当してるハルといえば、目も体の線も細い、青白い奴だ。  決して不細工な訳ではないけど、いわゆる「好みの分かれる」顔。  細身の和風好みなら、ストライクってとこ?  まあ、口元のホクロは印象的だったけど……しっとりお色気系? ん?   とにかく華奢は華奢でも見た目はしっかり「男」だ。しかも若干ヤンキー寄りの。  ……トマは、あれがいいのか?  オガも?  や。そりゃ俺だって絆に惚れてるんだから、男が男に惚れるのがどうとかいうつもりはない。  ないけど……絆は見た目は女子寄りっていやぁ女子寄りなわけで…。 「……えーと…ベースの子、ではなくてボーカル?」  つい、そんな確認をしてしまう。  だってトラバのベースは、ふわふわの可愛い子だから、そのほうが納得できるっていうか……。 「ああ、山登最近ハル見ていないのか。最近のハルはやばかったぞ? 俺ストレートだけど、歌ってるとこ色っぽいなぁって思って見てたから」  小林君までそんなことを言い出す始末に、俺は、はあ、としか返答できなかった。  しっとり……お色気系?  トマは自分たちのバンドが納得いく形になるまでは見に来るなと、俺らにクギ刺してた。その時がきたらチケット送るからって。  だから俺がハルを目にしたのは2回だけだ。  トラバを結成してすぐの、音に乗り切れてない、いっそ可哀そうなほど委縮してた姿と、少し慣れてきた頃ストリートライブでのヤンチャ系の姿。 「……トーマは、ストレートだったはずだし、キョウだってそうだ。けど、ハルは……やばいんだよ。なんてえか……食中花みたいな奴。だから、トーマもフラフラ誘われるままに付き合ってたんだって……軽い…体だけの、関係なんだって、思ってた」  一言一言、思いだすように語られるオガの言葉。  クッと太めの眉が寄せられた。 「けど……俺の家でハルをみたときのあの顔は……ガチだった。あれは、本気の、やつだ。一瞬意味がわからないって顔して、俺たちを見て……そんで、何も言わないで、走って行ったんだ。……事故にあったのは、その直後で……、俺らが通りかかったとき、最初地面にあったのがバイクってわかんねえくらいに……もう……ぐちゃぐちゃになってて」  オガは大きな両方の手で顔面を覆うと、大きく息を吐きだした。  トマのオンナが男ってことで毒気を抜かれたのもあったけど、全員何も言わなくなったのは、バイクの惨状を目撃者に語られたことで、トマの「重体」ってのが、かなり重くのしかかってきたからだと思う。    
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