君は狩人僕は狼

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君は狩人僕は狼

 ロジゲはいったいどうなってるんだ、まったく。  どいつもこいつも女の子漁ってヤリまくってたくせに、本命が男、とか。  カズと樋口の間はグレーだけど、俺は確信してる。あの二人はデキてる。 「うまくなってんな……」  音割れがひどいながら、随分うまくなった演奏と、俺のとは違って伸びのいい歌声が部屋の中に響いていた。  俺の膝に載ってるスマホの中では、トマが元気にギターを弾いている。  それは小林さんに送ってもらった最近のTRACBUGのライブ動画だった。 「むかつく……」  左肩には絆の熱と重みと、掠れた悪態。  睨みつけるように、俺の知ってるハルとは別物の生き生きとした色気のある男を、そしてその男を熱い目で見るトマを、凝視してた。 「むかつく……」  トマが目を向けるのは、センターでマイクを握るハルだ。  本人に意識があるのかないのかは不明だけど、トマの気持ちを知ってからこの動画を見れば、こっちが恥ずかしいくらいのあからさまな態度だったのがわかる。 「……トマの本気が、なんでよりによって男で。……なんでこいつなんだろ……」  零れた絆の言葉が、俺の心に積もる。  俺こそ、なんで絆じゃなきゃ駄目なんだろうって思ってるよ。  世界には何十億と人がいるのに、なんでよりによって、ここにいるたった一人じゃなきゃだめなんだって。 『君は狩人僕は狼。僕は君に胸撃ち抜かれて。友達のままでもいいからお願い。君の隣にずっといさせて』  飛び込んできた歌詞に自嘲が漏れ、そして画面の中で胸を押さえたハルの目がトマと絡んだのに、なんか息が苦しくなった。  この歌詞を書いたのは、誰なんだ?  一言文句を言ってやりたい。  友達のままでいいから、なんて、控えめなこと言ってんな。  せめて歌でくらい、友達じゃ嫌だって喚こうぜ? 「早く、意識戻るといいな……」  俺の言葉に無言で頷く絆。  トマの笑顔を近距離で抜いた映像から目をそらすと、俺の胸に顔を埋めた。    
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