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バイト先の仔犬
これから仕事だからというレナに駅まで送ってもらい、昼飯をまだ食ってなかった俺は、人の病室で何やってんだとオカンムリの絆を引っ張ってバイト先のダイニングキッチンへ出向いた。
カランと音をたてて開けたドアの向こうで、最近入った可愛い子犬のような高校生バイト迪也がニパリと笑顔をくれる。
「わり。ラストオーダーの時間過ぎてるのは重々承知の上なんだけどさ、二人分、その笑顔でねじ込んでくれない? 迪也のお願いなら愛犬家の店長は断れないから」
「だから僕を犬扱いするの、やめてくださいってばっ」
や。だってほんとに子犬みたいなんだもん。
ボール投げたら、コロコロしながら全力で取りにいきそうな。
「……あ……デート、ですか?」
お伺いをたてるように聞かれて振り返れば、ものめずらしそうに入口のメニュー板を眺めてる絆の横顔。
ああ、まあ、そうか。
襟足に届く黒髪を耳にかけ、その耳をシャラリと飾るチェーンピアスはメンズのゴツイタイプであるにもかかわらず、それが逆に、カジュアルなTシャツからのぞく白くて細い首を強調してる。
前から見たらその首にはささやかながら出っ張りが見てとれるんだけど、この角度からだと、それがわからない。
「そうそう。彼女。可愛いだろ? 今腹へって超機嫌悪いからさ、デザート大盛りでって頼んどいて?」
「あっ、は……」
「いたいけな少年を欺くなっ!」
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