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病室の蛮行
ガツリと俺の足を蹴った絆から発せられた、女の子にしては低すぎる声に、迪也の目がまん丸になった。
「あっ、ごめんなさいっ、僕っ」
自分の誤った認識に気づいたらしい迪也が慌てて頭をさげるのに、絆が苦笑した。
「気にしないでいいよ。歩いてても”どっち?”って聞こえてくるのしょっちゅうだから」
「そうそう。この前なんて酔っぱらってギター弾いてるとこ動画サイトにのっけられてさ、女の子と間違われてストーキングされて、大変だったんだよな?」
今となってはネタになる話だけど、その時は洒落になんなくて、あわや暴力沙汰ってとこまでいったんだ。
「ランチ、時間過ぎてんだろ? 無理そうだったらいいからね。こいつ、ほんと厚かましくて……」
「あ、いえっ!! 大丈夫ですっ! そこのっ! 1番の個室どうぞっ」
チラッと俺を睨む絆に、迪也は慌ててそう言い残して厨房に消えた。
「……山登、なんか年々適当さが増してないか? トマの病室でのことだって、あんときもしトマの母さんとか来ててみろ。……考えただけで頭が痛いわ」
席について早々蒸し返される話。
誰のせいでこんな人間になってしまったのかって、出せない言葉の代わり、拗ねたように唇を突き出した。
「常識的なことで絆に意見される日がくるとは」
そもそも絆が俺を捨ててトマとイチャイチャしてるからだ。
嘆く俺に、絆は大きくため息をついた。
「ハルに、ヤッてるとこバレてるぞ」
「はあ? ハルって、あのハル!? くそビッチの!?」
浮かぶのはマイクを握り、空いた手で自らの髪を掴んで、官能を堪えるみたいに声を絞り出す姿と、その快感という獲物を逃すまいと、視線で捕らえるかのような、色気のある目。
唇のピアスに這わせる舌に留めをさされたと、オガが言ってた。
「弟分の惚れた奴を悪く言うもんじゃないぞ」
声を張った俺に、絆はフンと鼻を鳴らしてそんなことをほざいた。
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