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魔法の絆創膏を
「はあ? なんだ、それ。会ったらいきなり殴りかかりそうだったくせに」
「時間は人を変えるんだ」
テーブルに肘をつき、手の甲に片頬をのせてメニューを弄りながら、澄ましたように応える絆。
「劇的だな。……ハルと会ったのか?」
絆は肘をついたままチラッと視線だけよこすと、クスリと花みたいな笑みを浮かべる。
トクンと、心臓が跳ねた。
「あいつのあんなとこ、初めて見た。トマの。可愛かった」
「はあ?」
そんな笑顔でそんなこと言われて焦るのは、トマにかっさらわれたりしないだろうなぁ、てこと。
冷静になってみりゃ、二人とも男イケるわけだから……。
「ハルとは、付き合ってないんだってさ。トマの片想いっての?」
「はあ?」
そんなこといわれたら、いよいよ慌てる。
「あんなガチガチで?」
動画の中の二人は、どうみても相思相愛の間柄ってやつだった。
演出であんな表情できる高校生なら、アマチュアバンドなんてやめて俳優になるべきだろ。
「本気そうに傍にいるくせに、告白もしないでワチャワチャやってるから応援しといた」
清々しささえ湛えた笑顔が、ほんの少し不思議に思えた。
だから、思ったことをそのまま口にする。
「そういうの、嫌いじゃなかったか。告白とか、恋愛とか」
俺を縛る、あの、例の絆の呪いだ。
「ああ好きではないな。けど、他人事だから」
トマを可愛がってる絆からの、まさかの言葉。
「はあ? おま、絆、ひどいなっ!」
「本人がいいんだったら、いいだろ。なくしてもいいのか、なくさないつもりなのか。トマと…俺とは、違うから」
絆の傷は深い。
でも……。
「……違わないかもよ?」
でも、その傷をふさげたら、俺は、お前を、もらえる?
「ん?」
「だから! 世の中のカップル全部が別れるわけじゃないだろ」
絆を手に入れる為の必死の言葉。
「だな」
「なら……」
「みんな、ハートが強いよな。俺は…無理だ」
はあぁ。
魔法の絆創膏は、どこにあるんだろうな。
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