214人が本棚に入れています
本棚に追加
/216ページ
むかつく影
階段を登る足音。
聞き慣れない妙なリズムだなと思ってたら、赤い顔した絆がドアから顔をのぞかせ、ベッドに寝っ転がってた俺の体の上に飛び乗ってきた。
「痛ぇわっ」
相変わらず我が家はセキュリティーが甘いみたいだけど、こんな襲来なら大歓迎だ。
多少の痛みには目をつぶろう。
「なあ、フェス行こ、フェス」
「あん? 何? 急に」
学部の奴らとバーベキューだと言ってたから、その帰りなんだろう。
階段を上る時の歩調と赤い顔と甘える仕草に、酒が入っているのがわかった。
ベッドと酔った絆とか取り合わせ的にかなりクるもんがあるけど、俺にのしかかった絆から、ここしばらくよく嗅ぐようになった香りが鼻を掠めたのに、思わず唇を噛んだ。
「津ノ森ベーシックとかぁ、クライマクライマーとか、出るって」
最近絆は女の子と遊ぶことが激減した。
本人曰わく、二十歳になって大人になったからだってことだけど、いかにもイタしましたっていう空気を垂れ流してる時に、このメンズの香水の移り香を纏ってる可能性が高いことを、こいつは気づいてるんだろうか。
学部の誰かか?
そこにそいつが居て、この体を自由にしてる。
むかつく。
むかつく。
むかつく。
女とのセックスは赤裸々に語ってくるくせに、男との行為はチラッとも口にしない絆。
でも、以前スワッピング紛いの行為で絆が男に抱かれてるとこに居合わせたのを皮きりに、絆が定期的に男とシてるんだって、俺は気づいてる。
「どこであんだよ。つか俺もう寝るとこなんだけどーっ?」
馬乗りになった絆を胸の上に引き倒すと、高校の時より少しだけ骨格のしっかりした体を羽交い締めにする。
香水の香りが、いっそうはっきりしたものになった。
くそっ。
最初のコメントを投稿しよう!