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ボーカルという過去
「てーんちょ、シフトの希望変更したいんだけどさ、この土日、休みたい!」
ランチタイムを終え、まかないを食ってる店長に卓上のカレンダーをグイと押しやるとあからさまに眉をしかめた。
「ええー、土日ぃ?」
「うん!」
「うんじゃねえよ。土曜か日曜、どっちかじゃだめ?」
「だめ。お泊まりだから」
全開の笑顔を見せる俺に、大きな口を開けてカレーを食ってた迪也が、こちらも笑顔全開で聞いてきた。
「旅行行くんですか?」
「旅行ってんでもないけど、山フェス。距離あるから止まろうって」
「ああん? 女かよ」
「ちゃうちゃう。絆」
高校の時から続けてるバイトの上、オーナーがバンド絡みの知り合いってのもあって、店長は絆を知ってる。
「え? まさか再結成してフェスに出る人ってオチ?」
「まさか」
「え? 再結成って?」
苦笑いする俺に、迪也がまん丸の目を向けてくる。
「こいつ、中高とバンドやってたんだよ。まあまあ人気あったよな?」
「え!? ほんとに!? カッコいいっ! 楽器、何やってたんですか?」
「ベース……?」
「なんで地味な嘘つくんだよ。おまえボーカルじゃねえか」
なんで嘘つくかって?
まあ俺が嘘つきってこともあるけど──。
「すごいっ! 聞きたいっ」
そ。これが嫌なんだ。
楽器だとそんふうに言われる機会は少ないけど、歌はどこでも歌えるから気楽にそんなことを言われて、で、カラオケとかに誘われて歌わされるのがもう気恥ずかしいことこの上ない。
「またやりゃいいのに」
「やぁ。ドラムもう社会人だし、俺らも就活とか実習とかで忙しくなるから。つーわけでっ! 残り少ない自由な学生の時間なんで連休くださいっ」
「よく言うよ。散々遊びまくったろうがよ」
呆れたように眉を下げた店長が真面目な顔して迪也に向き直った。
「こいつ、いかにも好青年ですって雰囲気醸してるだろ? ところが──」
そこで間を置いて、怪談話みたいなテンションで首をよこに振る店長。うざい。
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