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カサノバのカサやん
「高校生の時の徒名がカサノバのカサやんだからな」
「カサノバって?」
「高校生は知らなくていいの。あ、店長、こないだのジブリの見た?」
悪くなりそうな風向きを変えてみようと、ジブリ好きの店長に話を振ったものの、ばっさり切られた。
「見てない。けど、お前がこないだまた新しいオンナ連れてたのは見た」
「え? いつ? ん? 誰?」
「ほら、な!? あてずっぽでいったのよ、俺は! それが、な? ほら。ちょっとお前、今まで関係したオンナの人数言ってみろっ!」
「……はは」
「な? 迪也、こいつはこんな奴なんだよ!」
「山登さんって……やっぱり、モテるんですねぇ。あははカッコイイですもんねぇ」
力ない笑いと微妙な表情がいたたまれない。
「だからな迪也、取られたくなきゃ彼女は店に連れてくるなよ!」
「何それ、人聞き悪いなぁ」
「事実だろ! お前絆と一緒に柏田くんの彼女引っ掛けたろうがよ」
「違うっしょ? あれは向こうから来たからね!?」
「結果は一緒だろう? ほんとにさあ、お前らさっさと決まった相手と付き合えよ。女の子は同数で分け合わないとよぉ。や、もうさ、お前いっそ絆と付き合っちまえ」
「うん。そうしたいんだけどねぇ。絆がウンて言わなくて」
俺の本心からの声に店長はアホらしいとばかりに鼻を鳴らした。
「ほんと適当王だよ。お前は」
「あー、ほらぁー、てんちょがお茶目なこと言うから迪也どん引きしてる」
複雑怪奇な表情を浮かべてた迪也は、俺と目があったとたん「あ、いえ、違っ」とかなんとか呟いて慌てて目をそらした。
「まったく。バイトにネガキャンなんて、ロクでもない店長だ」
「は? その連休はどっかから応援呼ぶから、楽しんでこいって言おうと思ったのに、お前出勤な」
「わあ。なんて素晴らしい店長だろう。な、迪也、店長今日すげーカッコよくない? あ、ヤバい惚れそう」
「うるせーわ」
そんなやり取りを見てクシャミした子犬みたいな顔で笑う迪也は妙に可愛い。
高校生ってこんなだっけ?
過去に置いてきた自分は、こんな顔して笑ったことあったかな?
そんなことを思っても、やっぱり浮かぶのは絆の百面相。
もう、病気だ。
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