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甘い夢
俺は夢で、何度も何度もキスをした。
蕩けて、なくなりそうな、そんなキス。
夢ん中でそれが夢だって確信したのは、腕の中に閉じ込めたのが絆だったからで、夢なんだからそんな現実的な思考を挟まなくてもいいのに、なんて思ってるのも、また夢の中。
まあそりゃ? せっかくだから堪能させてもらうけど、って思ったのも、夢の中だったろう。
パチンと意識が戻った瞬間。
状況が掴めなくて、頭の痛みを感じるながらも、まず混乱。
へ?
ここ……え?…車……?
つか、腕が痺れ……ん? これ誰……って絆……。
絆!?
びっくりするほど見事な腕枕。
腕の中で小さく寝息を立てる絆に、思わず目を見開く。
え? なん…で?
首だけあげて見渡せば、シートをフラットにさせた車内に、二人で布団被って寝てるっていう摩訶不思議な状況。
車の窓は、外が寒くて車内の温度と隔してるのか、白く曇ってしまっていて外の様子が見えず、どこにいるのかもわからなかった。
ただ。
なにがどうって!!
猫が飼い主の温もりに寄り添うみたいに、俺の胸に触れた絆の手。
それは現実だ!!
夢の記憶を反芻してみる。
よもやあれはリアル!?
よし、俺、いったん落ち着け。
キスの夢。二人で一枚の掛け布団。腕枕。
うわ。なんか心臓バクバクしてきた。
だってキスは夢の中だったから俺の望むエッセンスが効いてたわけで、現実であんなのは……なあ。
ないない。
あはは。
ないって。
腕の中の絆の唇を凝視してみた。
……わからん。
え? なんかあったの?
当然服は着てるけどもさぁ。
こういう、腕枕、なんてさぁ。
こんなさぁ。
ああああああっ! くそっ!!!
なんも覚えてないっ!
最終の記憶は、絆が水を買いに走り去る足音だ。
残ってるのは夢の記憶と、二日酔いの頭痛と、腕枕による腕の痺れと、その腕の中の、絆。
まさかの?
まさかの、キスは夢じゃなくて?
記憶はないけど、俺、告白とかした!?
で?
まさかの?
……まさかの!?
いやいやいや。ないないないっ!
あれだよ、あの、例の、上げて落とすって、アレだ。
「……ん……」
「!!!!!」
読めない状況に果てしなくテンぱってしまってた俺。
絆が小さな声をたてて体を捩ったことにそれはそれは大げさに反応してしまい、慌てて腕を引き抜いてガバリと身を起こす姿は、さながら盗みの現場を見つけられた泥棒だ。
なんでだ!!
なんでこんな卑屈なことにっ!!
結果少々雑に扱われた絆は、うーんと唸ると、のそりと身を起こした。
「……おは、よう」
手の平で顔を擦りながら、すんと鼻をすする絆に恐る恐る声をかけると、絆は半目を俺にむけて、おはよダーリンなんて俺の首に腕をからませ、目覚めのキスをくれた───なんてことはなく。
「ん。…はよ。体痛い……」
掠れ気味の声で呟くと、再びバタリと倒れこんだ。
「えーと……俺…」
「山登酔っぱらっていくら言っても起きないから車に放置しようと思ったんだけど、さすがに朝方冷えるしさぁ。凍死されても困るし。うち、布団1組しかないから、いい迷惑。図体デカイから、座席フラットにするのも大変だったんだからな」
はい。ごめんなさい。
やっぱりな。ほら。色っぽい話なんて欠片もありゃしない。
「ふあぁぁ。……とりあえず、上行く? 布団運んでくれよ」
「はい! マスター! 仰せのままにっ!!」
「うむ。苦しゅうないぞ」
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