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迪也電話相談室
「ごめんな。今度飯でも奢らせて?」
こみ上げた感情が静まった後に訪れるのはとんでもない羞恥心。
高校生に縋りついて慰められるとか……。
はぁぁ。情けない。
「そんなの気にしないでください」
「いや、そこは口止め料も込みってことで。俺のせいで遅くなったな。最終間にあう?」
「はい。余裕です」
「送ろうか?」
「大丈夫ですよ。女の子じゃあるまいし」
「そういう油断がいけないんだぞ?世の中女の子より可愛い男の子っていう悪人もいるんだからな」
「はい。気をつけます」
「遅くなって、親に怒られない? なんなら俺行って……」
「大丈夫ですってば。11時過ぎなきゃ何も言われないですから」
「そうか。……あ、でも」
「あはは。ほんと心配性ですよね。じゃ、聞くけど、山登さんが僕と同じ年のとき、ちゃんと補導されない時間に帰ってました?」
「……まあ、たまには」
「たま、なんだ。…でも、ね? そういうことですから。山登さんも今日はちゃんと家に帰って寝てくださいね?」
まったくね。どっちが年上なんだかわかんないわ。
「ほんと、ありがとな」
「僕こそ、ちょっとでも役に立てて嬉しいです。じゃあ、これで。さようならっ!」
裏なんてない、会心の笑みを見せて立ち去る迪也に胸の中が温かくなった。
あの笑顔を待ち受けとかにしたら、案外いいかもしれない。今度頼んで見ようかな?
そんなことを考えながら背中を見送っていたら、ぐるんと振り返った。
「あ、迪也電話相談室は夜間も受け付けてますからね?」
手をメガホンみたいにして言った後、クシャンと笑う迪也に一瞬、過去が被った。
「……あ」
過ぎ去った過去。
失った未来。
「はい?」
固まった俺に迪也が首をかしげる。
俺は慌てて同じように手をメガホンにして口元に当てた。
「……うんっ! 覚えとく!」
可愛い笑顔は闇の中に消えていく。
そしてまた明日になったら、天真爛漫な純粋さを振りまいてくれるんだろう。
ああ。
……やっとわかった。
なんで迪也の笑顔があんなに俺を捉えるのか。
絆、だ。
初めて会った頃の絆が、あんな感じだったんだ。
両親の離婚がなかったら、清澄に付け入られることも、同級生にいいようにされることもなくて、今もあんな風に笑ってるんだろうか。
たら、も。れば、も。意味ないことなんてわかってる。
けど。
思うだろ?
そしたら俺は、どうなってたんだろうって。
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