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意固地な時間
「ん」
オチャメに舌を出したツインテの童女と思しきプリントがされた赤い缶を横から差し出す。
そしたら寒さに自らの腕を体に巻きつけたまま何も言わずに、ただ缶に目だけを向けてきた。
「それ、温かいのなんて、お前しか飲まないから、引き取れ……」
「ああ……」
缶に手が触れることで掛かる微かな重みに、妙にその存在を感じる。
離れていた間も、悔しいことにこれっぽっちも俺の中から離れなかった存在。
でも──だ。
並んで立って、その感情がなんとなくお互い様な気がしたのは、気のせいじゃないと、思った。
俺のとは違う種類の感情だとて、こいつにとっちゃなんだかんだの腐れ縁。
近い存在だったのは間違いなくて、気まずい電話の切り方してからこっち何の連絡も寄越さず、気まずさだけが膨らんでいったのは──。
そんで、今、現在サラッと会話できないのは、お互い、拘ってるせい。
「……まあ…なんだ…」
俺のは、つまんない焼き餅。
こいつのは……知らんけど──先輩に縋ったとこを見られた気まずさなのかも、だけど。
そんなつまんないもんで、こんなもたついた日々を過ごすのはバカバカしい。並んで立ったら、嘘みたいに、普通に、そう思った。
「………」
そうは思ってんだけどなぁ。
自分の口、自分の言葉なのに、なんでか声が出たがらない。
「……あれだ」
どれだ。
「………」
「………」
意固地な時間。
それは、シャチホコバスターの騒音も気にならない、密な時間。
そしてそれを解かしたのは絆……が、缶を開けた音だった。
ポクリと、缶の中の圧が解放される。
気まずさの時間稼ぎみたいに、両手の平で包んだ缶を無表情で口にした絆。
とたん。
「………うま」
ふわっと、笑みが開いた。
ああ……。
はは。
昔と変わらない。
そう。
絆は──絆だ。
「久しぶり、絆」
自然に、声がでた。
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