アイスクリームはオカズ

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アイスクリームはオカズ

「姉ちゃん調子乗らせるようなこと言うなよな」 「えー、ほんとに綺麗じゃん。山登に似てる」 「……」  本人はものっそい気楽に口にしたか知らんが、その笑顔とセリフは罪作り。  ドキドキ跳ねる心臓をなだめるようにして小さく深呼吸すると、迷って迷って迷った挙げ句、どうしても誘惑を押しのけることができなかったアレを実行に移すことにした。 「ア……アイス食う?」 「いるっ! 食べる!」  満面の笑みを浮かべる絆に、チクチクとした罪悪感を覚えながら、俺はアイスを取るために立ち上がった。 「じゃ、取ってくるから、待ってて」 「うんっ!」  可愛いに底はないのか!?  なんで学校が違うんだっ!  くっそーっ、ぜったい絆と同じ高校に行ってやるからなっ!  学校が違う俺たちがバンドの練習できるのは週末。  飲食店を経営し始めた絆の両親が迎えに来るまで、晩飯をうちで食って時間を潰すって具合で、可愛い絆を独り占めできる、俺の至福の時間だ。 「よし」  冷凍庫から先日発見した赤いパッケージのアイスを取り出しているところに、姉ちゃんが現れた。 「あれれ? そのアイス……あれれ?」 「なっ、なんだよっ」 「いやぁ。まあ、ねえ。手近なとこが一級品だもんねぇー。くぷぷ」 「は!? 意味わかんねーしっ」  ごまかしたものの、自分でもわかるほど顔が赤くなってしまった。  まあ元より目論見はすっかりバレバレらしいけど。  くそっ。  これだから世ずれた年増女は嫌なんだっ。  逃げるように部屋にもどると、壁にもたれてバンド雑誌を読んでいた天使に差し渡した。 「山登顔赤いよ、どしたの?」 「あ、や……息止める練習?……してた」 「なによ、それ」  ねっ○り新食感というキャッチコピーの、丸めた紙にアイスを充填したみたいな筒状のそれを珍しげに眺める。 「練乳?」 「んん…絆、好きだろ、練乳」 「めっちゃ好きっ」  キュンっ。  まん丸な目を細くして笑うのに、クラクラする。  ああ、ごめんなさい、ごめんなさい。  先に謝っとく。  心の中だけだけど。 「山登は? これ半分こにできるけど」 「や。いい。甘いから。姉ちゃんも、ダイエット中で、食わねえし。絆、食って」  そして俺にオカズヲテイキョウシテクダサイ……。
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