バカなカバ

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バカなカバ

「うん。久しぶり……山登」 「何痩せてんだよ。番数上がったんだろうな」  そう。  昔と変わらない絆は、痩せてた。  前よりも。  血色の良かった肌が青白いのは、ほんとに寒さのせいなのかって。  首をひねりたくなる。 「あはは。下がった」 「はあ? 何やってんの? バカだろっ」  昔と変わらないはずの絆から溢れるのは、気怠さの中に研がれた色気、みたいな、もん。 「バカだから下がったんだ、バカ」  大人になったって、そんな、感じ。 「バカにバカって言われたくねえわ……ほんっと、バカにつける薬はねぇな、バカ絆」  一緒にいるのが、ドギマギする類の、やつ。 「はんっ。しょうがないからバカにつける薬発明してやるよ、バカ山登」  昔と変わらない……? 「そのバカ増殖薬の副作用で賢くなれるかもな、バカ絆」  嘘だ。変わったわ。 「じゃあ、いの一番で塗って、せっかくの山登の個性無くしてやるよ、バーカ」  いや……変わったのは、俺? 「うるせえバーカバーカバーカバー、カバーカバー」    ああああもうっ!  どうでもいいや。 「や、もう、逆立ちしてるから」  誰がどう、変わろうと。  俺とこいつがここにいて、笑ってられたら、もう、いいや。 「カバ絆」 「ヒポポタマス山登」 「ぷはっ」  だって、吹くしかねえだろ。  なんだよ、”ひぽぽたますやまと”って。 「売れねー。なんの業種かしらんけど絶対売れねー」 「はい、どーもー! ヒポポタマス山登でーす……って超言いにくっ」  バカなカバの会話。  あの先輩とは、絶対こんな会話をしてない筈。  アコガレマナザシでしたから?  ふんっ。  絆はなっ、こういうバカらしいとこが可愛いんだよっ!  まあ……それは俺だけに見せるわけじゃないけど?  けど、俺と居るときのほうが出現率高いんだよっ!  なんでか。  そりゃ、おれが逆立ちしたヒポポタマスだからだっ! 「んなこと言ってるから、シャチホコバスター、終わったじゃん。ヘドバンし損ねた」  ステージに向けた俺の言葉に、絆が、はあ? と声をあげた。 「タケノコバスターだろ、あれ」 「はあ? マジで?」 「そんな、シャチホコバスターって……名古屋の人に怒られるぞ」 「あ、俺、今度ガッコの研修旅行で愛知行くわ。土産、○KEのグッズでいい?」 「……や、俺、偶像崇拝者じゃないんでぇ。栄公園行く?」  隔たりがあったのが、嘘みたいだ。  たわいない会話が、嬉しい。 「はーい、ツチノコバスターにもう一回拍手───!!」  聞こえてきた司会の声に、思わず顔を見合わせる。 「……珍獣ハンターじゃん」 「俺、なんて言ったっけ?」 「……タケノコ?」 「ぶははっ」 「シャチホコよりひでえじゃねえかっ」 「あははは」  笑いに揺れる絆の肩が俺の腕の当たるのが。 「へへへ」  やっぱ、嬉しいんだ。
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