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願いを言葉に
「会えなくて、すげぇ、寂しかった」
抱き締めた絆の耳元へ、一音一音に想いの全てを込めて心を注ぐ。
「…そ、んなん…、可愛い高校生と…楽しく…してた、ろ」
強張った絆の体と、声と、心。
教授じゃないなら。
誰のせい?
何のせい?
「……寂しかった?」
12月15日。
やっぱり絆はあの時あそこにいて、俺と迪也が恋人だって話を、聞いたんだ。
目が赤かったのは?
光の加減?
それとも。
「知らねーし」
俺から逃れようとするその体をシンクに押し付け、力を込めて一層抱き締めながら、顎を掬って上向かす。
「自分のことだろ。きかせてくれよ」
視線をそらし、頑なに俺と目を合わせない絆の瞳を追いかけて、覗き込んだ。
願いを、言葉に変える。
───頼むから。
どうか。
絆の独占欲が、これまでの俺の想像を凌駕してるように。
それが真実であるように。
手にしたパズルのピースが。
そこに。
はまるように。
「俺取られて……寂しかった?」
絆はいよいよ目を閉じると、のどにつっかえたものを押し出しように、声を発する。
「山登が恋人のとこ行くのは、当然だし、それに……」
繊細な造りの唇が戦慄く。
そうだよ絆。
違うんだ。
俺が聞きたいのは、それじゃない。
そうじゃない。
「絆?」
願いを込めて促す。
そっと、絆が目を開けた。
真っ黒な黒檀の瞳が俺を映す。
次の瞬間。
美しいラインを描く下まぶたから、透明の粒が溢れだした。
「……さみし……かった…」
震える声に揺れ、透明の粒はポロポロと白い艶やかな頬を転がり落ちる。
「……全部……全部……」
涙とともに漏れた言葉。
取り繕ったような、強張った美しさの剥がれた絆は、ただただ可愛くて。
「さみしかったぁ」
やっと口にした本音と、泣き崩れたその顔に。
もたらされた希望の光に。
もう、積年の思いを止めることは出来なかった。
俺は。
抱き締めた絆の、素直な言葉を紡いだ唇に。
「ん…んんっ…」
自らの唇を押し付けた。
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