掛け違えたボタン

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「絆が、好きだ。友達としてじゃなく。何回言わせたいかは知らないけど、聴きたいだけ、聴かせてやるよ。俺は、お前だけが、欲しいんだ」  届けと、願いながら。  9年分の本心を告げながら、思う。  俺の9年は、言葉にしたらなんてシンプルなんだろうって。 「違う、だろ。だから…ほんとの話を…」  泳ぐ絆の視線。  今にも逃げを打ちそうな体を、腕をつかむ手に力を込めてこちらを向かせた。 「だから、してるだろ。俺は、お前が好きだ」  そしてなんとなく疑ってた部分を言葉にしてみる。 「ほんとは、お前だって気づいてたんじゃないのか?」  それで俺を振り回してんじゃないかって思ったことは、一回二回じゃなかったからな。 「知ら…ない…。だって…お前…男同士なんて…考えられない…って、俺に、言った」  つっかえつっかえ返ってきた答えに思わず首を捻る。 「は? んなこと……」  言ったのか?  頭の中をひっかき回して捜索する俺を尻目に、絆はうらみがましい目を向けて先を続ける。 「なのに、お前、俺にキスしたり、平気で、して、さ。だから…わけ、わかんねーし。散々女と遊んでたくせに、なのに、初めて付き合うって言った相手は………男、で。俺の……な……うっ……うーーー」  俺に掴まれた腕をまっすぐにのばしたまま、下唇を噛んでまたボロボロ泣きだす姿は、愛しいとか、そういうのを超越して、いっそイジメたくなるくらいだ。 「あの夜、泣いた? 俺が迪也と付き合ってると思って?」 「………」 「なあ。ショックでその場から動けなくて、風邪、ひいた?」 「………」  肯定も否定もなく、ただ唸るように嗚咽をもらす絆だけど、それでももう、俺から視線を外さなかった。
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