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帰ってきた幼馴染
「ん。金曜なら、大丈夫」
もともと絆の為に土日の練習にしてた俺たちは、練習日がいつでも問題はない。
つうか絆不在の今、すでに土日は遊び倒してた。
「けど、ジンナくんの受験、いいん?」
そこは進学校に通う絆。
着眼点がしっかりしてる。
俺なんて中学生ってのはわかってても、見た目に実感わかないせいか、3年の受験生っての忘れてたもんな。
そんで名前も。
俺らはつい、本人が下の名前呼ばれるのを好まない空気を賢くも察して、普通ならこっちを嫌がるだろう「おとーと君」なんて呼んでたけども、考えてみたらアニキは「キョウ」だから、苗字で呼べばいいんだよな。
「ああ。あいつ、○○工業行くから特に受験勉強いらないって」
「へえー、優秀。あそこ制服と校舎変わってから結構レベル高くなってるのに」
「しかも学校推薦で国立の工学部狙いらしいよ。先を見据えてるイヤラシい子なのよ。俺なんてEランクの大学もアヤしいのにさあ」
「いやいや、カズ。まずお前は学校行ってから言えよ」
俺とカズと樋口は同じ中学だったけど、カズは私立の高校。俺は公立の自称進学高校、樋口は公立の商業高校って具合に進んだから、もともと別の学校だった絆とおとーと……もとい、ジンナ君加えても見事にバラバラだ。
「だって行ってもおベンキョわかんないんだもん。それよか女体の神秘に触れときたいっしょ?」
「そうね。僕もそろばん弾くより、女の子の色んなイイとこ弾きたいっ! じゃ、行きますか!?」
「おう。んじゃな!」
「どこ行くんだ?」
「可愛いギャルとドライブえーんど、お食事会でございますっ」
俺たちのところに戻ってきたとき既にジンナ君の姿はなく。持ち主不在のギターは樋口の肩にかけられていた。
絆と雰囲気悪かったのを察して取り持つ気で二人にしてくれたのかと思ったら、なんのことはない。今日約束した女子大生と段取りつけてただけだ。
仕事が早いというか、なんというか……。
「ジンナ君、餌にしたんだろっ。あんまり中学生振り回すなよっ!?」
ライブイベントも途中だってのに、へいへいと後ろ手を振りながらいそいそと立ち去る二人の背中にかける絆の言葉。尤もだとは思いつつも、人の童貞は結構雑に捨てさせたくせに、と、思わず恨めしい視線を送ってしまう。
そんで、また、ジンナの絆に向けるキラキラと、それを柔らかく受け止める絆の姿を思い浮かべて、例のチリっとした感覚が蘇った。
「や。あいつは、心配ないわ。せっかく俺が設えてやった童貞卒業企画を前に、自力で卒業してしまってた可愛げのない奴だから」
うん。あいつは、俺らみたいな下等生物には振り回されないだろう。
ほんと、イヤラシい子。
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