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互いの不安
これはほんとに、可愛い寂しがり屋を手に入れた瞬間ってことでいいのか?
長すぎた九年に半信半疑になるのは当然の防衛本能。
ソファーに押し倒し、腕をお互いの体に絡ませ、貪るようなキスを交わしても、ついついドンデン返しに怯えてるんだから。
だから「あ」なんて、喘ぎ声とかの色気とは全くかけ離れた声が絆の口から飛び出しても、若干諦めの心持ちがなかったわけでもなかったんだよ。
「…あの…さ」
ほら、やっぱりなんかあった、的な。
それでも、その瞳を覗き込めば涙とは違う、熱に潤んだ瞳に拒否感の色はなくて、とりあえず胸を撫でおろす。
あ。俺のね。絆のじゃなくて。しかも比喩だから───って、俺は何をパニクってんだ。
「でき……る?」
上気した頬と、窺うように見上げてくる切なげな目に一層情欲は煽られ、話は後にしてさっさと先に進ませろと思いながらも、遅ればせながら絆の問いが、これから行われる予定の行為に向けてのものだと気づいた。
「なんで?」
ヤりたくてたまらないのに?
まさかこの期に及んで、俺のことはやっぱり友達としてしかみえない、なんてんじゃないだろうな?
「だ……って。俺……こんな、顔だけど、女じゃない、し」
「何を今更」
こいつはさっき懇切丁寧に伝えた俺の9年の、何を聞いてたんだ?
「いや…だって。山登……困ってない?」
困る?
そりゃあれだ。
下品な表現をすれば、まあ、さっさと挿れたくて困ってるわ。だってオトコノコだもの。
「なんでそんなん、思うわけ?」
「だって……」
遠慮がちに、肩に這わされる指。
「あんま……乗り気じゃ…なくない?」
「はあ?んなわけあるか」
こんなガチガチのシモぶら下げて……いや、ガチガチ過ぎてぶら下げられないシモ、だ。なんて思いながら間抜けな声をあげてすぐ、こいつは俺の怯えをそうとったのかと、合点がいった。
「だって……男とシタこと、ある、わけ?」
お伺いをたてられ浮かぶのはシュンの白い身体。
う。
ここは、なんて応えるべきだろうか。
金でオトコを買いました。だから経験ございます───って?
えー、それってどうよ。
「うん。……あるよ。一人だけど」
嘘は得意だったけど。
でも、絆を手に入れた今、もう、吐くべきじゃないよな。
「そ…か」
絆は嬉しそうな、悲しそうな、複雑な顔をして俺の首に腕を回すと、ギュッと抱きついてきた。
そのせいですぐ傍になった絆の耳にほんの少し歯を当ててから、吐息と一緒に声を注ぐ。
「なあ、絆。俺、マジで、すげえシたい。正直こんなにシたいと思ったことないくらい。シたい。がっついて、いい? ひかない?」
「ひ…かな…い」
「我慢きかなくて、すぐイクかもしんないけど、ひかない?」
「ひか…ない」
「絆が欲しすぎて、何回もスるかも知れないけど、ひかない?」
「ひ、かないっ…」
「止めてって言っても、やめられないかもだけど、ひか……」
「もうっ!! しつこいんだよっ!!! バカ山登っ!!!」
声を荒げ、巻きつけていた腕を解いた絆が、目を吊り上げて俺のシャツの首元をつかみ上げたかと思うと、大きな口をあけ、肉食獣みたいな勢いで俺にキスをしかけてきた。
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