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封印の札
憑きものが落ちた。
まさに、そんな感じ。
何やってんだ、俺───。
ささくれてた心のギザギザに沁み込み、俺を満たす絆の気持ち。
それが、他の野郎なんか関係なく、ただ俺が絆を好きだってのを、思い出させてくれた。
「絆、ごめん。痛いよな? ごめんな」
どう考えても、額に浮かぶのは脂汗。
自分がいかに無体なことをしたかなんて今更だけど。
いったん絆をゆすっていた腰の動きを止め、額に、頬に、宥めるようなキスをした。
「男とシタことあるかって、聞いたろ?……一人って…答え方したけど、一回ってのが、もっと正解。しかも、相手はプロでさ。だから……わかんなくて……無茶…してる。教えてくれたら、絆が、快くなるように、努力するから、だから、言って? どうされたら、いいか。どこが、気持ち……いいのか」
嘘交じりの本音と、無理から捻りだした言葉。
絆はプロってとこで少し苦笑したけど、後は綺麗にほほ笑んで、押さえつけるのをやめた俺の頬を、小さく震える両手で包んだ。
「山登…の…思うように…して…?」
その言葉に、見透かされてるんだとわかった。
俺の器の小ささを、丸ごと包もうとしてくれてるんだと、ようやく、気付いた。
……そうだよな。
普段の絆ならちょっと痛いだけで大騒ぎするのに。
俺の為に何も言わずに、ただ我慢してた。
挿れた時から、ずっと絆のソコは萎えてて。
それこそ、繋がるだけの強引な行為を。
嬉しい、なんて。
死んでも、いい、なんて。
「……ごめん…俺。さっきの、嘘。男とのセックスがわかんなくて無茶したんじゃなくて……ヤキモチやいて…おまえに、ひどいこと……」
「山登」
「痛いの、わかってて。わざと…。初めての相手だって、ただ…さっかく…したく───」
「山登。もう、いいから」
頬を包んでいた手が、そっと俺の口を塞いだ。
これまで俺が絆にぶつけた強引で荒っぽい手つきとは正反対の、控えめな指。
潤んだ目が、優しく俺を包み込む。
「ヤキモチ、嬉しい。もっと……嫉いて?」
蕩かされるような甘い声と、口唇をなぞる指。
あまりの破壊力に、うっかり質量を増した俺の熱に、絆が引き攣ったような短い声を上げた。
「いっっ…」
「悪い」
「ううん。なぁ、山登? 俺……もう、他の奴とは、しないよ?」
苦く笑ってから、真面目な顔をして俺の髪をギュッと握る絆のその腕に、キスをする。
「……当然だろ」
「だから……山登も…もう、ダメだから」
「……おまえに他の奴とシテ来いって送り出されても、無理だし」
一番欲しかった、最上級を手に入れて、他に望むもんなんかあるわけがないんだ。
「うん。……ああ、山登、好き。大好き」
いっそ、封印の札は絆の方に貼られてたんじゃないかってくらい、好きって言葉を連発されるのに、”好き”をどこにも漏らしたくなくて、唇を押し付けた。
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