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最終話
心から欲した相手との行為。
決して叶わない願いだと思ってたのに、まさかの、それこそ起死回生の逆転劇だ。
視覚に、音に煽られ、何度果てたかわからないくらい夢中になった。
さすがに打ち止めとなった俺自身を絆の中から抜き取り、崩れるみたいに絆の横に仰向けに寝転んで、荒い息を整える。
色んなもんが混じりあって濡れたシーツが不快で眉をしかめるものの、即座に動くことができない。
ここまでの疲労感をセックスで味わったのは、短い生の割に多い経験の中でも、初めてだった。
「すげぇ……ヨかった」
同じく肩で大きく息をしてる絆の疲労感は、きっと俺よりもっとデカいだろう。
息も絶え絶えの体で、トロリとした目を今にも閉じて眠ってしまいそうだ。
ああ、早く身体を綺麗にしてやって、新しいシーツに寝かせてやらないと。
息の整いきらないまま、それこそ心地良い微睡みに引きずり込まれる前になんとか上体を起こすと、俺の体に添えられていた手に指を絡めて引き上げて、手の甲に、指先に、思いの丈を込めて唇を押し当てた。
「一生。俺のもんだ」
絆は眉を寄せ、泣き笑いのような表情を浮かべる。
そして、それこそ腕一本動かすのもいっぱいいっぱいの様子で空いていた方の手を持ち上げると、俺の頬を包んだ。
「これ…俺の」
さっきまでの痴態に掠れる声は、まだ快楽の余韻を残すように甘く、もう一滴残らず絞り出した筈の股関がピクリと刺激される。
「うん」
絆の指が、俺の上唇の表層をなぞる。
「これも」
「うん」
「これも…これも」
頬を、眉を、鼻すじを、絆の指が滑る。
「……全部」
「うん」
「俺の、だ」
「うん」
「……嬉しい」
絆はそう言って微笑むと、ふっと目を閉じ、意識を手放した。
「……反則だろ」
スースーと寝息を立て始めた唇に笑みを残したままの、夢に見ることも叶わなかった、絆の満たされた姿。
それをまさか俺が与えることができるなんて。
溢れ出る喜びで魂が震えるみたいだ。
「好きだよ、絆」
汗で張り付いた髪を梳き上げ、閉じられた瞼にキスをする。
何度も。
何度も。
なのに、何回しても足りなくて。
だから。
何回も何回も。
キスをした。
だから。
心の奥から湧き出した、初めて口にした言葉は生憎絆に聞かせることはできなかったけど。
「愛してる」
きっと届いてると。
信じてる。
=end=
◾️□◾️最後までお付き合いありがとうございました。常春〜春は来ないafterstoryやSSもございます。よろしくお願いします◾️□◾️
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