甘さは苦さ

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甘さは苦さ

 聞いちゃいけない。  そんなん、わかってる。  なにより、自分の為に聞くべきじゃない。  けど、人はわかってて、止められないことが多すぎる。  それは俺だけ?  違うよな。  ダメだってわかってても、とめられない。  そんなもんだ。  そんで危険なもんにこそ人は興味をそそられる。  自分を正当化するつもりはないけど、非難もしない。  だって、罰を……受けるんだから。  はは。これ、よくね? 歌詞にどうよ? 一曲できそう。これでも俺、一応楽器弾けるんだからさ。 「今? 今……塾来てる……。ん。言ってたやつ。ん? まあ、良さそう、だよ? ……ん。水曜と…金曜に」  外階段に、曲がった壁の向こう。  小さく聞こえる嘘と、甘えるがごとく、甘い、声。 「うん。そうだよ。……うん…うん、俺も。あは。……それは…いつもだから。……うん。待ってる」  心臓の音が、ツチノコタワー並にうるさい。  あれ? そんな名前だっけ?  打ち上げ、来てなかったよな。確か。  うるさい。うるさい。聞こえないじゃないか。絆の声が。  違う奴に向けてる、絆の……。   いや、違う。うるさくて正解。  だってこれは。  完全に先を聞くべきじゃないフラグだろ。 「会いたい。清澄さん。……俺も……会いたい」  ああ。  ほら。  ほら。な?  自爆。   はは。  ほら。  罰が、あたった。  絆の声からは言葉以上の何かがこもってて。  それは、それが俺に向けられることを切に願う類のもんで。  でもどうあがいても俺のもんじゃなくて。  ただ。  その甘さが苦くて。  胸が痛くて。  なんで俺じゃないんだ、なんて感情に、押しつぶされそうで。  もう。  真っ暗だった。 
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