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特別な関係
耳にした瞬間、キュッと体温をあげる声。
暗闇に浮かび上がるのは、かすかな星の光だけで、浮かび上がる白い肌。
「忘れ物。ポストに入れといたから。マフラー」
「ああ……。どうりで寒いわけだ。」
ニューハーフのクッションは、なんだかんだで有効だったみたいだ。
冷静を保ててる自分に、そう思う。
「電話。出ないし。なんで、黙って帰った?」
大好きな香りに、大好きな声で聞かれて、けど、これは俺のじゃないんだなぁって、妙な実感。
それでも、例えそれが、俺が絆の電話に対して何か疑念を抱いたんじゃないかって俺の様子を確認しにきたんだとしても、今ここにいる絆は絆で。俺は、この絆が好きなんだと、同じくらいの実感が沸く。
恋を失うまでは、失恋じゃない。
なら、失恋するまで、想っていようじゃないかと。
それにひょっとしたら、絆の方が先に失恋するかもしれない。
そしたらそのとき、つけこんでやろうかと。
「便所。なかなか出てこねえからさ。近所のコンビニまで降りてったわけ。いや、一言断っていこうとしたけど、おまえ、電話中だったし。したら、今、狙ってる子をね、見つけたわけ。通りの向こうに。そんで追いかけたけど……男といてさ。ラブラブ? 凹んでさぁ。自棄コーヒー」
「バカだろ」
「うるせえバーカ。あ、マフラーさんきゅうな」
「おお。じゃあな。腹冷やすなよ、バカ」
恋焦がれる瞳を向けてくれなくても。
熱い抱擁をかわせなくても。
甘い声で囁いてくれなくても。
「バカバカうるせえバカ。駅まで送るわバカ」
「は? 女じゃあるまいし、いらねーよバカ。つか、もうバカネタいいからバカ」
「駅前のドラッグストアで腹痛の薬買うんだよ、カバ」
「ちょ、カバネタも、もういいって。このままだと売れない芸人の話になる」
「ヒポポポ……噛んだ」
「もっ…あはは。あほだ」
「なんだ、新しいジャンルかよ?」
「アホで? はは。あほだ」
恋人と友達の違いは何だ?
性的なつながり?
セックスしなけりゃ恋人じゃないっていうなら、まあ、恋人じゃなくてもいいよ。
それだけなら。
我慢できる。
だって絆にとって、俺はちょっと特別。
だろ?
恋人とは違う、特別。
それさえあれば俺は平気だ。
いつか俺だけに気持ちを向けてくれる日があるなら、それはそれで嬉しいに決まってるけどさ。
二人でいて、笑える。
それで十分──。
「なんて嘘だっ!!!!!」
「は? 何、いきなり」
「だからっ!! 嘘!!」
「意味分かんねーし」
「わかるわけねえわ。絆、アホだもん」
「はあ!? そうきた!?」
「絆のアホアホアホアホアホアホアホアホアホ」
「うーわ、バカよりむかつく」
「それはな、真実だからだ」
「はああ? それ言ったら山登の方がアホだからっ! 自棄コーヒーなんてチョイス、普通ないからなっ」
そうだとも。
普通ないことをするくらい。
お前に執着してんだよ?
……アホ万歳!!
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