春は来ない

千載一遇かはたまた

　俺の推理。
　アクセサリー屋で見たのは例の先輩と女だったんじゃないかってこと。
　そしてその推理は多分、あってる。

　もともと人の顔を覚えるのが得意じゃない俺に、あのカップルだらけの中からそれらしい人物を見つけ出すことはできなかったけど、あの絆の様子を見れば、他の原因を探すよりいっそ、ありえる話だろ。

　ずっと、聞けなかった。
　あの先輩とデキてんのかって。
　だってそうだろ？　聞けるかよ。男とセックスしてる？なんて。
　ただ、あの涙が、俺の聞けなかった問いに答えてくれたんだと思う。

　全然嬉しくないけどさ。
　先輩が俺らと会うなと言ったのは、きっと独占欲で、絆がその言いつけを守ったのは、そういうこと。
　最近絆に自由な時間が増えて、束縛してたはずの相手が女とアクセサリー屋に来てるってことは、そういう、こと。

　となれば、だ。
　絆は振られたって、コトだよな？
　女に乗り換えられたって、ことだもんな？
　じゃあさ、じゃあ……これってチャンス的なもんじゃね？
　いや、そりゃあ？　傷ついてる奴の心の隙間に付け入るようなのは反則じゃねえかなんて思う──わけないっしょ！
　こんな千載一遇の機会にいっとかなきゃ、いついけんだよっ！
　待ってたって一生春なんてきませんよ！？
　慰めるフリして──いや、フリじゃないよ。そこはちゃんと慰めますです。んで、まあ、そこで、お決まりのセリフ「おれじゃダメ？」の登場ですよ。

　ダメか？
　うーん。無い目じゃないと思うんだけどなぁ。
　絆だって決して俺のことは嫌いじゃないはず。
　うあ───。
　だけど、それとこれとは……。

　いやいやっ。そんなもんは当たって砕けろ。黙って見てたって手には入らないっ！
　ああ、けど、砕けたらどうしようっっ！
　うー、そこなんだよなぁ。
　拒まれたときの気まずさ考えたら……。

　いや、気まずさとかですむならまだいい。けど、友達ですらいられなくなったら？
　それは、絶対嫌だ。
　ずっと思ってきたんだ。
　絆との関係は、特別だって。
　セックスできなくたって、二人でいて、笑える。それで十分。
　失うくらいなら、求めるべきじゃないって。

　でも、あの、俺には向けられなかった甘い瞳を手に入れられる可能性を見いだしてしまったら……。
　ああぁっ。
　落ち着かないことこのうえない。