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友達という距離
「はぁぁ。ほんと、すんません」
とりあえず、運転席に向けての何度目かの謝罪。
「若いねぇ。俺にもそんな時があったわなぁ」
「ったく、何飲んだんだか」
酒が入っていい感じなったらしい絆は、ライブにいきなり飛び入りで参加してノリノリでギター弾いて、まあ、そこで放置された女の子が別の男にさらわれていったのはよしとしても、だ。
バカバカしいくらいキツい酒の回し飲みに参加して、今じゃグデングデンだ。
自堕落。
ほんとそれ。
俺、話しにきたのにさあ。
これじゃあ、まともな会話なんて到底無理だ。
「キズナくんがこんな酔うのめずらしいよな。可愛いから、つい周りも甘えられるままお酒与えちゃったみたいだけど、さすがに、それじゃあね。あいつも経営者なら、監督責任あるだろうに……ああ、俺、オーナーと同期なんだ」
なるほど、それで見かねて送ってくれてるんだ。
高階さんは30半ばくらいで、この年代以上の人たちに言わせると、この頃は未成年の飲酒に対してやたらうるくなった、らしい。だから、ちゃんとしてる店が多い中、あのライブハウスのオーナーは「必要悪」なんて言って多少の飲酒なら見逃してくれる。
空気が読める学生限定で。
だから今まで絆は野放しだったわけだけど……これは、ダメだろ。
「ほんと、すみません」
「やけ酒ってさー、結局はなんも解決させないんだけど、二日酔い酷いとさ、肉体的に苦しすぎて悩んでることとかどうでもよくなるの。そうやってごまかしてくうちに、忘れるんだよな。ま。酔えるうちは大丈夫だ」
うちの姉ちゃんもオトコに振られてはやけ酒。仕事で怒られてはやけ酒、そんな具合。
原因はその都度丸分かりで、それは姉ちゃんが愚痴るから。
でも。絆は言わない。
やけ酒の原因を。悩みの種を。
何もいわない。
「はは。けど、ヤマトくんも苦労するよな。いい友達がいて幸せだよ、キズナくんは。あ、今の、今度オーナーにあったら、言っといて。オーナーいい友達いて幸せっすねーって」
「……はい」
いい友達。
そう、思ってた。
けど、絆にとって俺はどの程度の存在なんだろう。
やけ酒の原因も知らない、月に1〜2回会うか会わないかの俺。
頻度で言えば、他のバンドメンバーとそこまで大差ない。
絆は心の中身を、誰かに吐いてるんだろうか。
俺以外の誰かに。
例えば同じ学校の奴とか、に。
ああ。
ありえすぎるほど、ありえる話。
俺は絆が黒髪から茶髪に変わってピアスをあけた、そんな変化の時すら何も知らされなかったのに。
自分のちっぽけさとか、無力さとか。
そういう感情の根源は、とどのつまり。
───俺はこんなに絆のことばっかなのに───。
そんな気持ちに振り回されてる俺は、全然、いい友達じゃない。
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