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赤い誘惑
せめて俺が枯れたジジイ、若しくは二次性徴前の子供なら。
こんなに苦しむこともなく、ただぬくもりを与えるだけの湯たんぽに徹することもできたんだろうけどさ。煩悩にまみれた10代後半には、リアルに拷問なんだけど……。
腕の中の温もりに欲情するのは当たり前なんだよ。
男同士だけど。
ああ、もう、なんか、ダメだ。……俺の中の色んな常識の基準とか、もう、ブレブレ。
だってだよ?
好きな奴が腕の中にいて、すがりついてきてだよ?
しかもそいつには貞操観念とか、そういうもんが欠如してるんだよ?
そんなもん。
なあ!?
言うてこいつは、俺の性経験を合同セックスでスタートさせたような奴だ。
そこらへんの感覚は、かなり緩々のはず。
もうここはいっそ……。
っは。ダメダメ、俺っ!
早まるな、頭浮かせて深呼吸しろ深呼吸。
落ち着いて。
ほら、ああ、いい革の匂い。
「そういやあ前は、このソファー布かけてたことねえ?」
気持ちをそっち以外に向けるため、発した言葉のつもりだったのに。
「ん……まえ、セックス、シたとき…汚して……そのまま……めんどくて……捨てた」
……そっちだった。
くそーっ、すっかり引き戻されたじゃないかっ!!
カタカナ四文字。
童貞の時はドキドキしたその言葉も、今じゃすっかり耳に流す程度の単語だったのに。
なんか、もう、だ。
ソファーのカバー捨てるほどのセックスってどんなだよ、とか。
誰とだよ、とか。
そう。
誰と?
ずっと思ってた、下世話な話。
やっぱ。
したんだよ、な?
男同士で……例の、あの、行為を。
やっぱり、絆が……女の子…なの、かな?
その唇で、何を、どこまで……したんだ?
少し体をずらし、視界に入れた口元に、目を、奪われる。
少し開いた、その気はなくても誘うような、赤い、唇。
血のように赤い、誘惑。
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