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ひねくれもの
思わず二度見する美貌。
サラサラの茶髪に着崩したブレザーに肩掛けのギターケースなんて、どうしたってチャラくなりそうな要素を、透明感のある美しさで、すっかり貴公子の──いや、男装の美少女の装いにしてる。
耳にイヤホンを入れ、ホームの壁にもたれてスマホを弄るほっそりとした姿に、通りすがりの女子中高生のみならず、 男子中高生、いや、おっちゃんおばちゃんまでが目を奪われているってのは、全然大袈裟な話ではないんだわな。
近づく俺の気配を察したらしい。
こっちに視線を向けると、スッと目を細めるように微笑んだ。
いつからか見せるようになった、幼さの失われた、綺麗な、綺麗な、微笑。
俺の心をさざめかすその笑みは、俺の心を掴んで離さない。
「おせーよ、山登」
美しく上品な笑顔を片頬だけに残し、えらく雑な調子で発せられる声とともに、肩にかけてあったギターケースを押し付けてきた。
「はあ? なんでだよ」
「山登、今じゃすっかり身軽なんだから、俺の荷物を持つべきだろ」
「なんだ、その理屈」
絆が言ってるのは、俺が中学のときに手を染めたベースを辞めてボーカルになったこと。
俺に楽器の才能がないのは二人でバンドをしようって練習始めて直ぐに明白となり、もともとコツコツ一つを成し遂げる能力を持ち合わせてない俺に、絆は歌うことを勧めたんだ。
「ああ、言い間違い。俺の荷物じゃなくて、俺ら、の荷物だわ」
「いやいや、絆さん」
「俺、ここまで持ってきたんだから、こっからは山登の番な。つーかぁ、山登が外部の受験失敗しなきゃこんなとこで待ち合わせなくても良かったわけよ」
「……う」
そうだよ。
絆と同じ高校行きたくて必死こいて勉強したけど、そこは中高一貫の進学校。
外部受験はあまりにもハードルが高くて、見事に滑った。
「まあでも、結果的には良かったけどなっ。せっかくの青春期を男子校で過ごすなんてぇハメになんなくてっ」
つってもまあ、絆より綺麗な女子なんていないんだけど。
「……あ……」
ナメたように片頬で笑ってた絆が短く声を漏らし、その顔が一瞬にして暗くかげる。
ポケットから取り出したスマホを見て溜め息を零すと、そのまま、またポケットへしまい込んだ。
「出ねえの?」
「ん…?ああ、まあうん」
歯切れの悪い返事のあと、どうしたって弱々しいとしかいえない笑いを浮かべてギターケースをかけ直すと、さっさと歩き始めた。
「なあ、おい絆、大丈夫か?」
「何がよ」
「いや、なんか……」
「山登が待たせるから盗撮とかされてイラついてんのっ! あんまゴチャゴチャ言ってると、プレミアムアイス奢らすぞっ」
あからさまに不機嫌な様子で足早に進む絆。
中学の頃は、それこそ何でも思ったことを口にするような純真無垢で可愛いやつだったのに、今じゃすっかりひねくれ者になっちまった。
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