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幸せな痛み
絆と、キスをした。
しかも、かなりの本気のやつ。
絆が侵されたアルコールにこっちまで酔いそうな深いキスは、今までのキスが嘘みたいに燃え上がって、どんな女の子とのキスより、いや、セックスそのものより、一層溺れた。
自分からは止めることができなくて、でも絆から止めることもなくて。
だから、唇を合わせたままフェイドアウトしたんだって気づいたのは、今こうして、目が覚めたから。
それほど夢中になった。
テーブルの上の、ソファーから手が届く距離にあったエアコンのリモコンのおかげで快適になった室温は、このところの睡眠不足とあいまって、なかなか深い眠りを与えてくれたらしい。
遮光カーテンからは、もう、うっすらと朝の気配が漂ってた。
絆と抱き合ったまま、途中で目覚めることのなかった体が痛かった。
けどそれは、幸せな痛みだ。
だってそうだろ?
例えそれがソファーの上で、服を着たままだったとしても、好きな相手とキスして、抱き合って眠って朝を迎えるなんて、俺には叶わないと思ってたんだから。
好きだ。
めちゃくちゃ。
好きだ。
小さく息をたて寝入る絆の、俺のせいで赤味を増して少し腫れた唇に指を這わす。
目が覚めたら。
好きだと、告げよう。
順番が逆になったけど。
俺がいかに絆を欲してるかを、絆に欲してもらいたいかを。
心を込めて。
わぁー。
ドキドキしてきたっ!
目が覚めるのが待ち遠しいような、怖いような、逸る気持ち。
長い睫が印象的な、綺麗な寝顔も悪くないけど、黒くて丸い綺麗な瞳をやっぱり見たい。
キスしたら、目さますかな?
ああ。
そういえば初めて見た時、白雪姫みたいだって思ったんだっけ。
今あの絹の黒髪は茶髪になってしまったけど、白い雪の上に落とした赤い血のような唇は、変わらない。
ああ、違う。
俺が何度も食んで愛した唇は、ずっとずっと……。
「……ん……」
頬に指先を当てたのに、絆が身じろぎする。
すこしづつ瞼が開かれ、焦点があった、その時。
微笑んでくれるとか、漠然と、思ってたんだ。
それくらい昨夜のキスは熱くて、濃いものだったから。
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