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言えなかったセリフ
あんなに全力で拒否られて、そのままここに居られるほど、俺は強くも図々しくもなかった。
俺は一時のテンションで、何を得て、何を失ったんだ?
泣きそう。
今日が学校とか、ありえない。
今から家帰って制服に着替えて、何事もなかったみたいに、学校?
重すぎる足を引きずって、玄関を開けた、時だった。
「ごめん。今日補習ないの忘れてて、いつもと同じ時間に来てしまって。早かっ……え?誰?」
お前こそ誰だよ。
そう声に出しかけて、そいつの制服が絆と同じものだって気づいた。
同時に、そいつの、怒りを含んだ目にも。
ああ。
なんだ。
俺が誰だよって話か。
だって普通の友情なら、朝、男が友達の家から出てきたって、そんな目をしない。
これはあの時の、先輩の目だ。
絆を縛ろうとする、男の目。
いつもの時間……。
それは、こいつが毎朝迎えにきてて、絆がそれを許してるってことで、開いたドアから足を踏み入れようとしたのは、家にあがることに慣れてるって、こと。
はは……。
理解理解。
したくはなかったけどね。
俺が言えなかった「俺じゃダメ?」のセリフは、もうこいつが、使った後らしい。
ああ、悪い。
お前のもんなのに。
俺、キスとかしたわ。
はは。
そりゃね、全力で拒否もするってか。
ダメだった俺ができたのは、何も言わないで、そいつから逃げることだけだった。
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