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友情は普遍
俺がどんな心持ちでも、時間は淡々と過ぎていく。
1日が妙に長かったり、短かったりの気分的な差はあれど、それはあくまでもこっちの問題で、 時間てやつはほんとに淡々としてて、ストイックだ。
見習わないと。
「おせーわ山登」
「おお。おまっとさん」
俺達は三年になり、遅ばせの桜はバタバタと咲いては、義務的に散っていた。
眩しい空の青に映えるピンクに目を眺めていると、ブルーシートの上に寝転んでいたカズがのっそりと身を起こした。
「あれだなー、桜見てると、春は来るもんじゃなくて、去るもんだって思うよな」
「あら、詩的」
まだ横たわったままの樋口がいつもみたいにカズへ軽口を返したけど、どこか頼りない。
「ほれ」
カズに投げられた缶を受け取りプルタブを開けると、甘ったるい匂いがそよぐ風に流された。
「うーん、花見にノンアルコールってのも風情ないなぁ」
「補導されてみろ。ますます風情ないだろ」
「まあ、それはそれで、いい記念になるだろうけどな」
「まあね」
「あ、トマね、中学の同級と組むの、決めたみたいだよ」
「へえ。じゃあもう、次の嫁ぎ先決まったか。良かった良かった」
「だな。俺らが散るのは、まだちょっと早い気もせんでもないけど、まあ、いい頃合いだろ」
「……うん」
「ま、なんだかんだ、楽しかった」
「おう」
「ああ」
何ごとにおいても、自然消滅上等。それが俺らのスタイルだし、全く問題なかった。
けど、絆と作ったこのバンドだけは、ちゃんと”終わり”を、形にしたかった──。
「俺、最後の文化祭、ガッコの奴らとバンドで出ることにしたからさ、見にこいよ」
「カズったら酷いっ!! 俺はおまえのドラムとしかヤらねえって言ってくれたの、あれ、ウソだったの!?」
「おまえはほんと、息するように嘘つくな。つか、おまえも女の子のバンド手伝うだろうよ」
「ドラムがね、いないんだってさ。僕モテモテ」
「おまえら早速だな。俺なんて嫁の貰い手ないのに」
「山登は歌詞覚えないからな、ダメだ。料理できない嫁と同じ」
「えー、僕は床上手なら料理下手でも全然オッケーだな」
「そこは料理だろ。セックスは毎日しなくても、飯は毎日食うんだぞ」
「えー、僕ぅ。毎日えっち派だからぁ」
「無理無理っ! 毎日は無理っ!」
こいつらのこんなやり取りを見るのも、別に最後になるわけじゃない。
けど学校が違って、お互いの生活を重視したら、自ずと会う機会は減るだろう。
バイトしたり、受験勉強したり、就職活動したり、免許とったり。
「あ。そいやこの夏の秘境ライブ、出演はしなくても、あれ行かない? 冬面白かったから」
「お。いいねえ。けど出演しないとなると、温泉、金かかるな。貯めとかなきゃ」
「浴衣。いいよね。僕、大好物」
「や。浴衣は食いもんじゃないから」
「やだなあ、カズ。な・か・み」
例えばこのまま、それこそ夏まで会わなかったとしても、夏になったらこのまま切り取ってその場にもってったみたいに、気兼ねなく笑って話せるんだろう。
それが、友情ってもんで。
きっと、一生もの。
でも。
絆は?
俺は、何を求めて。
そして何を失ったのか。
答えは、なかなか出せそうにない。
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