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閉ざされたドアと心
ドアの前で大きく息を吸い込んだ。
頭も、胸も、色んな感情でマーブリング状態だったけど、思い悩んだところで悩みはなくならない。
アンリママに言われたように、どうせこのままこんな関係を続けるくらいなら、いっそハッキリふられてしまった方がいいんだ。
息を吐き出すその流れで、絆の部屋をノックした。
耳をすませてしばらく待ったけど、それに対して返答はおろか、なんの物音もしない。
試しにドアを回してみたらやはり施錠されていて、ノブは途中で止まってしまった。
外から鍵をかけることのできないこのドアが施錠されているってことは、絆は中にいるってことだ。
「絆」
ドアを二回叩いてから、今度は声を上げて呼んでみる。
それでも、返事はなかった。
寝てるのか、それとも無視をしてるのか。
「絆っ! 居るんだろ?」
さっきよりも大きな声をあげたけど特に変化もなく、俺の心を萎縮させていく。
オヤジさんから聞いた限りじゃあ、絆は誰とも会おうとしないらしいから、この閉ざされたドアは、俺だけを拒絶してる訳じゃない。
だから、凹むことじゃない。
「………」
じゃないけど。
俺は、その他の一員に絡げられるんじゃなくて、このドアをあけることのできる、唯一の存在になりたかったんだよ。
「絆っ! なあっ! 聞いてるか? 絆!!?」
声を上げる度、ドアを叩く度、募る虚しさ。
お前にとっての俺は、その他大勢か?
それともキスのこと、酔ってるのに付け込んでって怒ってんのか?
「なあ!! 怒ってんなら、怒ってるって言え!! 無視はすんなっ!!!! 俺がなんも傷つかないとでも思ってるのか!?」
心の傷がみせられるもんなら、どれだけ俺が絆に切りつけられたか、えぐられたか、見せてやりたいとこだ。
今だって。
応えてくれないから、新しい傷を作ってる。
「上等だぁ、バカ絆っ! おまえがその気なら!! 俺はお前が出てくるまで、いつまでだってここに居てやるからなっ!! 持久戦だ、こらぁ!!」
絆の孤独を思って俺が息苦しくなるくらいなんだから、本人にしたら、そりゃよっぽどだ。
しかも絆は一人っ子だから、同じ悲しみを分け合える存在もいない。
変わってしまったリビングルーム。
失くなってしまったオーブン。
目にするたびに、絆はどう思うんだろう。
淋しい? 腹立たしい?
なんでおまえは。
その感情を、俺に話してくれないんだ。
なんで俺は。
あの時、キスしてしまったんだ。
キスより前に、話すべきだったろ?
その為に絆のとこに行ったんじゃなかったのか?
「あいにくオマル的なもの持ってないから漏らすかもしれないからなっ! 家汚されんの嫌なら、とっとと出てきて俺を追い出せっ!!!」
追い出すためでもいい。
それだけためでもいいから、どうか。
どうか。
どうか。
このドアを、開けてくれ。
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