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一過性の感情しか
「あんな学校……クソだ。行く…価値ない」
絞り出すような声に、ただ耳を澄ますだけの俺。
「どいつもこいつも……どいつもっこいつもっ!!」
隔たれたドア一枚のすぐそこで、血を吐くような絆の呻りが耳にこびりつく。
「俺は……俺はっ!!なんなんだっ!!」
呻き声に混ざる嗚咽。
揺れる細い肩が、記憶に蘇る。
「絆!? 何があったんだ? 絆!?」
「俺には友達が居ないっ! 居なくなる」
絆は確かに人見知りだし、カズが言ってたみたいに壁を作るから、本当に仲のいい友達っていうのは少ないのかもしれないけど、根性が曲がって……いや、曲がってはいても、悪いわけじゃない。
学校だって、ダルいとは言いながらそれなりにキチンと通っていたから、友達が居なくなるっていう言葉に、違和感を覚えた。
「仲良かった奴とか……みんな…みんな俺を……と、友達として………見なくなる……」
ドキッとした。
まるで俺の心の中を透かし見られたみたいな言葉。
身に覚えがあるからこそ、理解できた、言葉。
「俺……いらな、い。そんな……の、いらない。俺が欲しいの、は、一過性の、あんなん…じゃない。熱にうかされたみたいな、あんな、感情じゃないっ!!!」
「………言ってる意味が、わかんねぇ」
嘘だ。
俺は。
嘘をついてる。
俺は。
誰よりも、その感情をはっきりと知っているのに。
「恋人なんて、いらない。そんな曖昧な関係、信じてない。恋人が婚約者になって、夫婦になっても、別れちまったら他人以上の他人だ。俺は、大事な相手を……そんなもんで、失いたくない……」
涙混じりのその声は、両親の離婚を存分に引きずってて、送られてきたメールの嘘を暴き出す。
「なんで、恋人? 友達は、友達だろうが」
知らない振り。
気づかない振り。
嘘。嘘。嘘。
俺の嘘は、バレてないだろうか。
「……好きだなんて言われたら、もう、友達じゃ……いられない…」
「い……われた、のかよ」
「恋人なんて、いらないって……ずっと、俺、言ってた。それよりも……おまえとうちの親父みたいな……ずっと、ずっと、ずっと続く友達の方が、大事だって……俺、あいつにも、ずっと…言ってたのに。あいつ。あいつ……中学から…仲、よくて……俺にとっては、大事な…友達だった、のに…なのに……好きだ、なんて、キスされて、押し倒されたら、もう……無理だろ…? あいつに、とって…俺は、その…程度…って……ことだ」
ああ、やっぱりそうなのか。
「それはっ!……そうとも、言えないだろ。まあ、本気だったら……それは、それでしょうがないっていうか……」
なんで俺はあいつのフォローをしてるんだって思うけど、仕方ない。
だって絆は実際───そそる。
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