恋しい気持ちがなくならない限り

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恋しい気持ちがなくならない限り

 据え置きの本棚は倒されCDは散乱し、踏んでしまったんだろう、割れた透明のケースには錆びた鉄の色。 「怪我したのか?」 「……たいしたこと、ない」  まあ血の色からみても、怪我はカサブタに覆われてる頃だろう。 「ベッドしか……座るとこないけど…」  絆は器用に床の隙間を縫って、さっさとベッドの上に上がり、頭からうす手の毛布を被った。  お前のいるベッドとか、座れるかっ!!  足先で床に落ちている物を左右によけ作り上げた空間に腰を下ろした状態で、周囲を片付けることにする。  食ったもののゴミとかは一応ゴミ箱に捨ててるんだけど、部屋の中のそう大きくないゴミ箱が飽和状態になるのは至極簡単で、現状はゴミ箱ではなく、ゴミ置き場と化していた。 「食いもん取りに行くなりなんなりしたその手で、せめて下に捨てにいけ、阿呆。つか、その袋をよこせ」  絆の為に買い込んだ食料は、まあまあ大きめの袋に入れてくれてたから、多少はゴミ袋の役を果たすだろう。 「ん」  中の食品を抜いて、うつむいたまま空になった袋を差し出す絆。  その口元が少し綻んでいるように見えるのは、毛布が作る影と角度のせい、かな? 「………つか、ロクなもん食ってねえな」  ゴミ箱の中から出てきたのは、ステックタイプの栄養バーとか、パウチ入りのゼリー飲料とか、スナック菓子とか、そんなん。主食っぽいのはコンビニのグラタンとか、パスタとか、そんのが少々あったけど、結構下の方にうもれていた。 「……おかゆとかの方が、よかったか?ちょ、それかせ。お粥にしてきてやるから」  スエットから覗く鎖骨のうき具合見ても、ゴミの層から見ても、最近まともに食べてないのがわかる。  そこに固形の冷たいおにぎりとかダメだろうと、ペリペリとパッケージをはがし始めた絆に手を伸ばした。 「ううん。いい。このままで」 「大丈夫かよ」 「ん。山登みたら、腹、減ってきた」 「……」  やっぱり。  気のせいでも、影が作った陰影でもなかった。  絆は、確かに、微笑んでたんだ。  くすぐったそうに。  嬉しそうに。  満たされた……ように。  俺?  俺が居るのを、喜んで……る? 「お……前はパブロフの犬か。…海苔は、食うなよ。消化に悪いから」  俯いたまま今度はしっかり微笑んで、でもそれをごまかすみたいに唇を噛んで頷くその姿に。  ……きゅん、って。  ほんと、何なの?  俺を、これ以上、取り込むなよ。  抜ける気はないけどさ。  つって、まあ、抜けられる気もしないけど。  それをこれ以上、惚れさせないで。  もう。  十分惚れてんだから。  好きだよ。  絆。  誰より。  何より。  恋しい気持ちがなくならない限り、失恋じゃない。  なら。  俺は一生、失恋しないかもしれない。 
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