ストールの理由

1/1
前へ
/216ページ
次へ

ストールの理由

「あの人が染めろって言ったから髪も染めたし、ピアスも、開けた。言ったこと、あったっけ? うちの学校、外国の進学校真似して作ったから、もともとは成績さえちゃんととれてたら、そういうのアリなんだよ」  それは、俺だってあの高校を外部受験したから知ってる。  自由な校風。学校説明会にいったとき、集中力をあげるため、授業中にガムやアメを食べるのも邪魔にならなきゃいいって方針にするつもりだったけど、色々反対があって禁止になったこととか、そんな話を聞いたっけ。 「けど、とどのつまりここは日本で、今じゃあの学校でそんなカッコする、浮かれた奴はいない。周囲から浮いて、どんどん孤立してく。俺も、そう。高等部あがる頃には、自然と、友達の数が減った」   俺らのイメージじゃあ、あの学校の生徒は ”メガネの童貞” だもんな。そりゃ浮くわ。 「俺、どっぷりあの人にはまってたから、それでもいいと思ってた。ロック気取ってたのかもね」  再び会ったとき、すっかり変わってしまってたのにはあの男の影があったんだと思うと、やっぱり平常心とは言い難い気持ちがこみ上げる。  可愛く無邪気な絆を最後に見たのは、いつが最後だったっけ?  見納めになるとも思わず、何をしたのかも覚えてない。 「けど、しばらくしたら殴られるようになった。やれオトコと遊びに行ったの、楽しそうに話してただのって。そりゃそうだろ? 俺男だもん。友達と遊びにも行くよ。けど、それが浮気なんだって、ちょっと言えねえような酷いことも言われた。  そういうのなんか違うって思ったけど、親のことで不安定だったし、捨てられたくないってその一心で、嫉妬するほど好きでいてくれてんだって思うことにした」   前、肩を掴んだときに顔をしかめてたことがなかったか?  不自然なストールとか。  あれは、そういうことだったんだ……。  胃か、食道か、なんか、そのあたりがカッと熱くなる。 「痣ができるくらい、殴られたって…ことか。はあ? おまっ! ちょ、ダメだろ、そんなんっ!! おい、あいつの連絡先よこせ。俺っ……」 「山登。落ち着いて。もう……終わったんだ」  尻に火を付けられたみたいに立ち上がった俺を、泣き顔がくずれたような微笑みで制止する絆に、こっちが泣きそうになった。 「何殴られてんだよ……。だって、おまえ、そんな情けない奴じゃないじゃないか。いいようにされてんなよ。いくら好きでも、それは、ダメだろ」  気づけなかった。  そんで情けないことに、気づけなかったこと、救えなかったこと以上に、絆がそこまであの先輩に惚れてたんだってことの方に腹を立ててる。
/216ページ

最初のコメントを投稿しよう!

213人が本棚に入れています
本棚に追加