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最低な保険
「あいつは……? その……元親友、朝の、奴。なんでお前のこと、守ってくれなかったんだ。曲がりなりにも、好きだって言ってたんだろ? 一番仲良かったんだろ? 朝だって、一緒に学校行って、彼氏面してたん、だろ?」
親友、なんて気恥ずかしい言葉を口にしてしまうほど、俺はてんぱってて、そんな間抜けな質問をしてしまう。
「してたよ。何回も、好きだって言った。守るって…言ってた、けど……」
遠い目と、自嘲的な泣き笑い。
「俺とヤってたのバレたとたんに、俺が誘ったって言った」
「おま……バレたって……」
「あいつの部屋でヤってるとこ、親に見つかったんだ。すごい、剣幕。そりゃそうだよ。清く正しく、女の影もなかった息子が、半裸の男と、抱き合ってんだから。それこそ、汚い野良猫みたいに、家放り出されたよ。
……あいつからは、なんの連絡も……こなかった。来たのは、向こうの親から、うちの親父への、電話。学校には黙ってるから、二度と、お前の汚らわしい息子をうちの息子に近づけるな、って、言われたらしいよ」
あはは、なんて。
涙で湿気てるのに、絆は器用に乾いた笑いをこぼした。
かける言葉を探す俺の頭の中で、点と点が結ばれていく。
そういう理由で、アンリママ、だったんだ。
親父が絆のことを弥彦さんから聞いて、親父がアンリママに連絡をとったのは、きっと、アンリママも過去に何かあったから。
弥彦さんの面倒事に辟易してるって態度は、そういう事情もあったんだ。
「ちゃんと言ったのかよ? 向こうが手をだしてきたんだって、言ったのか!?」
「言ったけど。通るわけないよな。俺、だもん。茶髪にピアスに……女遊びの派手な不良と、委員長するような、真面目な優等生と……どっちの言葉が重いかって……こと。
ま、他の奴とも、ヤってたし? 事実なんて簡単に形をかえる。けど……そんなんより、何より、俺、そこで、気づいてさ」
薄い笑いは消え、視線を宙に漂わせて唇を噛み締め、何度か頷くように首を振る。
「先輩は……こういう時の為に、俺に、髪、染めさせて、ピアス開けさせたんだぁって。保険は、あんな最初っから、かけられてたんだ……って。俺、ほんと、バカ」
胸が、ギュッと、握られたような痛み。
絆はやっぱり、まだあの先輩を忘れてないんだろう。
切ないその表情が、それを教えてくれる。
ただ、俺の怒りが元親友から先輩へ変わったのは、その表情を見たからって、わけじゃない。
いや──違うな、嘘。
完全な嫉妬だ。
まったく。そんな最低な男に、なんで俺まで振り回されてんだ。
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