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うさぎ目
「大いにむかつく」
同情とか、嫉妬とか、怒りとかが俺の中でシェイクされて、なんて言っていいかわかんなくなって、ただ一番シンプルな気持ちを口にした。
「先輩も学校の奴らもそうだけど──このCDケースも、捨てるぞ?」
血はついてないもののヒビが入ったケースを、応えをまたずにゴミ袋替わりのレジ袋に放り込んだ。
「───おまえにも」
優しい言葉を、かけてやるべきなのかな?
可哀想だったなって。
もっと早く話して欲しかったって。
得てして人は、当たりのいい言葉を欲しがるもんだって。俺がさっきアンリママに言ったんだ。
けど。
グスグスと鼻をすすって、タオルで涙を拭ってる絆をまっすぐ見つめた。
「そんな糞みたいな童貞野郎どもに好きにさせてんな、情けない。手玉にとったつもりかもしんないけど、そこで泣いてたら、バカじゃねえか。せめてそいつらに『下手くそ』くらい言ってやったんだろうな?」
絆は、またクシャンと顔を崩し、唇を曲げた。
「……言ってない」
「相手が男だろうが、さ、絆が好きでヤる分には、まあ、いいんじゃねえかと思うけど」
思うか。
相手が女だろうが、嫌に決まってる。
ほんと俺、絆といると嘘ばっかだ。
「おまえ……絆、乗り気じゃない女と、無理にセックスしたことある?」
「……ない」
「俺もない。最低限のことだろ、そんなん。……絆がその同級生たちに誘われた時どういうスタンスで望んだのかはしらんけど、ノリノリでヤったわけじゃないだろがよ」
「嫌って……言った」
「発情期のサルには、もっとちゃんと言い聞かせないと。ちょ、絆、スマホよこせ」
びっくりした時の目がまん丸になるのは前のままだ。
その顔を見るのが好きだったし、はは、今でもやっぱり、好きだわ。
「なんで?」
「そいつらのアドレスなり、ラインなり、知ってんだろ?」
「知ってるけど……やだしっ。何すんだよっ」
「何って、復帰宣言」
「はあ?」
「二度と話しかけてくんな、童貞野郎って」
手を出す俺をまん丸の目で凝視したまま、体をすくめてブンブンと横に首を振る。
「やだしっ。しかももうあいつら童貞じゃないしっ」
「やかましわ」
ムカつくことを言うなっ!
俺には行きずりのオンナで捨てさせたくせしやがって!
まあ、それでも、ウサギみたいに真っ赤になった目が可愛いと思うのは、内緒だ。
「そこら辺ちゃんとしとかないと、学校行ってまたウザいの嫌だろ?」
「学校なんて、もう行かねえもんっ!」
「もん、じゃないの」
ぐちゃぐちゃになったタオルを口元にあて、器用にもベッドの上から、床に座ってる俺を上目遣いで俺を見る絆の幼い可愛さに身悶えしそうになる。
目を離したいのに、離せない。
ああ、きっと俺の瞳孔は開いてることだろう。
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