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企みの合コン
「それ、おとーとのじゃねーの?」
キョウの手首には、細い黒革とシルバーが何連か繋がったブレスレッド。
こないだトマと会ったとき、春休みの短期バイトで稼いだ金を突っ込んだっていってたのに酷似してる。
「ん。借りたぁ」
手首を持ち上げ、ニコニコ笑って薄暗い店の照明をシルバーに照り返して遊びだす響に、カズが目を剥く。
「は? あいつ失くしたってこないだ言ってたし」
「おま、弟からパクったのか? ……最低だな、キョウ」
「だから、昨日会った時に借りてるってゆったしぃ」
「さすがに怒ってたろ」
「おとーと君は優しいから怒んないもんね」
「ひゃあ。何、その力関係」
「なんとか姉妹じゃね?」
「だってさあ、おとーとくんがもってるもんって、ほんと欲しくなるんだよねぇ」
「それって、何? 愛? 嫌がらせ? こんなアニキ絶対いやだわぁ」
「……うちのアネキも鼻につくと思ってたけど、マシだった」
「はあ?あのさあ。誰のおかげで聖女と合コンできると思ってるかなあ?」
「えー、キョウ様ー」
「キョウソ様ー」
そう。思惑ありありの合コン会場。
シモの方はチャラチャラしてるけど、見た目は好青年風の医大生を2人誘って、揃った男は5人。相手も5人。───聖廉女子だ。
例の彼女のことを調べようとしたら、キョウが最近付き合い始めた子が聖廉女子だっていうから渡りに船とばかり、そっから情報のひとつも入手できたらと思った。
そしたらなんとまあ、同じクラスってことが判明したわけだ。
で、それこそ強引に誘ってもらって、まあ本人がやってくるってマジック。
世間は狭い。
その言葉が流布する謂れをしみじみと噛み締めたもんだ。
「キョウちゃん、お待たせ~」
勢いこんで振り返り、現れた女の子の一人を見て度肝を抜かれる。
はい?
俺とカズの姿を見て、俺に負けないくらい、女の子の目も見開かれる。
そりゃそうだ。
そこに立ってたのはこないだ敢行した、絆抜きのラストライブで目撃したトマの彼女だったから。
別れたって話は聞いてない。
や。そりゃ俺らあいつのマブダチってわけじゃないから、知らないだけかもしらんけど。
まあ、目の前の女の子の顔みたら、なあ。
はは。世間の狭さに脱帽だわ。
「ちょ、おまっ、あれ、あの子っ」
声をひそめて、キョウの耳元でそこまで言ったら、キョウは悪びれることもなく笑顔を見せる。
「可愛いだろ。おとーとくんの彼女」
え。
こいつ、あれがトマの彼女って知ってて?
おとーとくんが持ってるものが欲しくなるって……おいおい、怖いわ。
「まあまあ、座って座って!」
状況をわかってない大学生二人の先導で、なんとも微妙な空気を孕んだ合コンは始まった。
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