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恋心の真実味
「え、あれ? ちょっと止めてもらえる? そういうの、本気で俺、かわいそうな子みたいだから」
「じゃあ、このあと、カラオケとか行ってみちゃうー? 応援ソングを、イケボのヤマトに歌ってもらおー」
なんで凹んでる方が応援ソングを歌わにゃならんのだ。
けどキョウの妙チクリンな提案は場を盛り上げ、2次会を掴み取る。
俺は「堪んないなぁ」とぼやきながら、百合の横へと腰を下ろした。
それはさっきよりも、数センチ近い距離。
「……彼女、すごく、素敵な人だったんだね」
「やめてよ、倉持さんまでそんなしんみり。忘れた! 忘れた! あー、もう忘れさせてー!!」
ふざけたように頭を抱えてみせる俺の姿は、百合の目に、一つの恋を忘れない一途な元遊び人として映っているかな?
まあまあリアルだから、これも真実味があるはず。
「いや、ほんとに、もう、諦めてるよ。ちゃんと、まあ、おいおい新しい恋を探しますとも」
苦い笑いが漏れるのは、嘘だから。
諦められない。
新しい恋なんて、できそうにない。重病だから。
「倉持さんは? 彼氏、いるんでしょ?」
「え? ……うん」
いきなり話をふられて戸惑いながらも、頷く百合。
居ない。居たことない。なんて嘘ついてくれたら面白かったのに。
「やっぱりなぁ。こんな可愛い人がフリーなわけないもんね。残念」
サービストークっぽい軽い口調で言いながら、視線はまっすぐ百合を捉える。
熱い視線に百合の瞳孔が開いたのも、俺は見逃さない。
けど、それは一瞬。
俺は視線を逸らし、腕を頭の後ろで組んで、あーあと声を漏らした。
「これは運命かも! って思っても、絶対出遅れてんだよね、俺」
あくまでも、あくまでもサラリとこぼして茶目っ気たっぷりに流し目を送れば、今度は俺を見ていた百合が目を逸らした。
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