ただひたむきに

1/1
前へ
/216ページ
次へ

ただひたむきに

「よす」  合コンの帰り道、声が聞きたくてたまらなくなって、絆に電話をかけた。 「よ」 「髪染めたんだな。小出さんがSNSにあげてた」  小出さんはライブを通じて仲良くなった美容師さんで、最近俺たちは小出さんとこの美容院に通ってる。  その人が撮影した絆は髪を黒く染め、短くなった襟足がワックスで浮かされてるのが、やたらと可愛かった。 「ああ。真面目そうに見えるだろ?」  「んなわけ。真面目なやつはワックスでいじらんのよ。まあ、でも、似合ってるよ、黒いの」 「そりゃ、元が良きですから」  ごまかしきれない照れの滲む声に、表情が浮かぶ。  たまんないよなぁ。  絶対可愛いもん。  例え表情が浮かんでも、声を聞いたら本物を見たくてたまらなくなった。  やっぱクシャクシャにしたいのは絆だわ。  会いたい。  すげえ、会いたい。 「なあ、今から家行っていい?」 「は? 急だな。つか今から来ても、終電なくなるだろ」 「ん。泊めてくれよ。今日、合コン行ってたんだけどさぁ。疲れた」 「持ち帰んなかったんだ」 「うん。ハズレ。親には今日外泊するって言ってあったのにさ。帰ったらハズいし」 「いいけど、ハーゲンダッツ買ってこいよな」 「了解」  どうでもいい女の子に貞節を装って、好きな奴にわざわざ女の子と遊んでるアピールするって、何だろうな。  けど。  なあ、絆。ハーゲンダッツが何味か聞かなくてもわかってるのなんて、俺くらいだろ?
/216ページ

最初のコメントを投稿しよう!

213人が本棚に入れています
本棚に追加