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着実に
ジャズのライブに友達と二人で現れた百合。
俺が前座のステージを終えた後、他の知り合いとの挨拶もそこそこに真っ先に自分に向かってきたことに、百合は満足げだった。
一緒に来てた火遊びを求めるお嬢様の友達に、夜の空気を纏う ”彼氏じゃない” 俺が君に懐いてる様を、知らしめてあげられた?
「今日はありがとう、と」
ライブを終えた後戻ったダイニングバーのバイト。
それも終えた俺が控え室でメールを送ってるとこに正社員の杉田さんが現れた。
「お、嬉しそうな顔して。何、ヤマちゃん、彼女に電話ぁ?」
「違うっすよ。この子、他に彼氏いるもん」
「人のもんかよっ! お前ねぇ……。最近面構え変わってきたから、彼女できたんだと思ってたのに」
「面構ぇ?」
「おお。なんかこう…色々緩いバカ学生だったのが、普通のバカ学生ってくらいに」
「どの道バカすか」
「そこは譲れんな」
笑う杉田さんに、机の上に置いてあった某キャラクターのぬいぐるみを文句代わりに投げてやった。
「ま、けど、顔つき格好よくなったから、てっきりガチガチの恋愛に目覚めたのかと思った、のっ」
投げ返された黄色いぬいぐるみが俺を見上げてる。
「ひとりの女の子に絞るなんて、俺にはできませんっっ」
だって、ひとりの男の子だもん。
「ったくなぁ。いい加減にしないと、そのうち刺されるよ?」
清澄が百合の為に俺を刺すくらいなら、俺も少しは報われるんだ。
絆を傷つけて棄てた元凶がそこまでのもんなら、さ。
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