お医者様でも草津の湯でも

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お医者様でも草津の湯でも

「くそっ! 待てっ!! 山登!!!」 「殴らせろとか言って蹴ろうとしたから待たないっ!!」 「じゃあ、殴って蹴るから待てっ!!」 「いーやーだー! 悔しかったら私を捕まえてごらんなさーい。あははは」 「待て待てぇーとかいうと思うのか!! 待ちやがれっ!!」 「いやーん、こわーいっ」  きめの細かい砂はやたら足にからむ。  流石にリーチの差があるから追いつかれるもんでもないけど、誰かが掘ったと思しき浅い穴に足を突っ込んでしまって完全転倒とはいかなかったものの、膝をついてしまった。  その時スニーカーの中に砂がバッサリと入って、かなり気持ち悪い状態に。  片足で立ち上がり、靴を脱ごうとした俺の背中にもの凄い負荷がかかった。 「捕まえたっ!!」  そんな声とともに、絆が飛び乗ってきたんだって思ったんだけど、それもつかの間。  片足だった俺はバランスを崩して砂の上に倒れ込んでしまった。 「いって……」  絆の顔が、目の前に、あった。  それは、口づけを交わしたことを否が応にも思い出させる距離。   赤い赤い。  魔の、唇。  こんなに。  こんなに、近くに、ある、の、に。 「覚悟しろよ山登っ! 俺は優しいから選ばせてや……山登? え? マジでどっか痛い?」  バッと馬乗りになった絆が、苦しそうな俺の顔を、心配そうに覗き込んでくる。  痛いよ。  心とか、さ。  けど、言えないし、聞きたくないだろ?  抱き締めてキスがしたくてたまらないんだとか、今も絆が退いたあとの体が、冷たくて、たまらないんだなんて。  どんだけ痛くても、苦しくても、治せないんだってさ。  お医者様でも、草津の湯でも。  恋の病は、治せない。 
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