オレンジの夕焼け

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オレンジの夕焼け

「ちょ、絆っ!!見ろ、ほらっ」 「おおっ!すげーきれー」  夕陽が海に沈んでいく時間。  辺りをオレンジに染めてから、今度は違う表情をして別の場所を照らしに行くんだ。 「なあ山登ぉー、太陽は誰にも平等に光をくれると思うだろ?」  夕陽を浴びた絆の髪が茶色に見えて、ツキっと、心臓が萎縮した。 「……まあ、どこにでも、朝は来るから」 「平等じゃない。赤道と、極じゃ、全然違う。白夜にはずっと照らして、極夜には、姿を現さない。おなじ地球なのに、全然違う」  絆の言いたいとするところが、わかるようで、わからない。  わかりたくないことだとしたら、わかりたくないから、わかろうと、してやらない。 「まあ、そりゃ、そうだわな。地球の形上、そうだろ」 「それでも、それに合わせて、みんな生きてる。そこで、その土地で。その照らす光を、そのまま受け入れて。そのせいで毎日が苦しくても、多少の文句を言いながらも、惰性で、暮らしていく。そこしか知らないなら、それが当たり前だから。  よその場所がパラダイスだって聞いても、実際目で見たわけじゃないし、そもそも行き方がわからなきゃ行けもしないから。だからそうやって、不平等の元で、生きてくしかないんだ」  絆の心の闇は、入り組んでるようで迷宮じゃない。  ただ、深いだけ。 「それが悪いってか? そうでもないだろ。よそ様の人生の良し悪しを勝手に決めんなよ? そんなもん、本人にしかわかんねえよ。不平等の中にも平等はあって、平等の中にも、不平等はある。  けど、自分は自分。根っこは自分のもん。花が咲かなくたって、いつか咲くかもって思いながら生きてくのも、悪くない。悪いのは、それを枯らすこった。……枯らすなよ?」  完全に俺自身に向けた言葉だったけど。  小さく頷いた絆が反射を無くした黒い髪を揺らして頷いたから、俺自身の根っこに水をやるため、後ろからその肩を抱くように腕を乗せ、太陽が完全に海に沈むまで、二人で黙ってそれを眺めていた。 
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