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お泊まり水族館
「は? 聞いてないっ」
「言ってなかったっけ?」
「夜の水族館とは言ってたけど、泊まるなんてのは一言も言ってない」
呆れたように受付の前で俺の足をガツガツ蹴る絆。
「面白そうだろ?」
肩頬を上げて笑ってやると、絆はうー、と唸って頷いた。
「ほら」
学校で水族館デートの話をしてたら、チケット当たったけど行く相手が居ないって奴が、三回女の子を紹介してくれるならやるって言ってきた。
神様は、間違いなく俺の味方だろ?
五回紹介してやるって言ったよ。
「それでそのデッカいカバン?」
「そ。ちゃらららっちゃらー!マイクロファイバーもうふぅーー」
到着してから、現地集合だった絆と会う前に、水族館の端のロッカーに預けてあったパツパツのバッグ。それを、ポケットから取り出す時の定番のリズムで持ち上げた。
「俺のは?」
「二枚入っております!」
敬礼のポーズを取る俺に、また呆れたように眉をさげた。
「先に言ってりゃ俺も用意したのに」
先に言ったら、なんか来てくれない気がしてさ。
けど、土壇場だと断れない。それが絆だって、俺は知ってる。
「皆さーん、集まってくださいねー!」
水族館で泊まるってのは、夏休みの小学生のイベントが今回初めて大人用になったもんらしい。
カップルばっかじゃないかって思ってたけどそうでもなくて、水族館の係員に呼ばれて集まった12組のうち7組がカップル、残りが友達同士って感じだ。
男同士で来てるのも他にいて、なんかちょっとホッとする。
「では、お魚トレジャーハントの時間でーす! 館内に隠されたヒントを探して、お宝ゲット! 早いもの勝ちですよー! スタート!」
こういう企画が好きな絆はノリノリで、俺の動きが遅いっていいながらキラキラした目でヒントを探していた。
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