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切ない立場
「学校、さ、今までそんな話したことないやつと、ちょっと話すようになった。
そいつ、オタクのダンス……なんか、名前忘れたけど、それのチーム入ってんだって。なんかさ、動画見せてくれた。すごかった」
……え? 絆さん…?
や。まあ。話せる相手が学校にできたのは喜ばしいけど……あれ? そういう系の方ですか?
「暗がりの中で、サイリウムの光だけ見えてさ。ああ、なんか、蓄光クラゲの、ダンス版、みたいな感じ。でさ、あのダンスってさ、フリ付けにも色々種類があって、それぞれ名前ついてんだって。ちょっと教えてもらったけど、激ムズ。ちょっとできないな、あれ」
「や。あれは……俺も…多角的な意味でできない、かな……」
「俺も、思ってた。オタクの変なダンスで、キモいって、最初。けど、あいつって、誰に何言われても気にする風でもなくてさ。変わってる、変なやつだって思ってたけど、けど……自分を持ってる奴だったんだ。芯のある奴だった。サイリウム買ったり、遠征するためにバイトしてんだって、聞いて、素直にすげえなって、思った」
「………」
「俺も、そんくらいギター好きだったはずなのに、結局、バンドだって、お前ら振り回すみたいなことして、さ。つまんなく流されて……」
「今はもう、流されてないだろ? ちゃんと、泳いでるじゃないか」
「……それこそ…クラゲレベルだし」
「クラゲだってちゃんと泳いでるだろ? ふわーって。それどころか、お前、ちゃんと学校行って、つまんない同級生との縁も切ったんだ。十分すごい」
褒められて、素直には喜べないんだっていうような、嫌くすぐったそうな表情。
それでもかすかに得意げな表情を見せる絆がやっぱり可愛くて、抱き締めたくてたまらない気持ちを自分の服の胸元を握ってこらえる。
「クラゲのとこに、書いてあった。水槽とか流れのないとこでいたら、クラゲは死ぬって。沈んだら浮き上がるのを自力で繰り返してるうちに弱って死んじゃうんだって。流れを作ってやらなきゃ、死ぬんだって」
「………俺が飼ってやれるなら、沈みそうなったら、かき混ぜてやるけどな」
「は。山登は……女と遊んで、すぐに、忘れそう」
「失敬な。忘れるもんか。いつだって傍にいて、かまってやるとも」
絆がいるなら、女の子なんか、どうだっていいんだ。
俺だけの水槽にいれて、誰にも見せたくない。
俺の腕の中に閉じ込めて、どこにも行かせたくない。
「うん」
はにかむような、満足気な表情で、絆は頷いた。
そんな絆の信頼しきった微笑みや言葉が、俺と絆との関係を思い出させる。
まったく。
恋人よりも上位の”友達”って立場は、切ないくらい、やっかいだ。
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