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遊び人の本領発揮
「んー。クラブだけの顔見知り? 趣味とか似てると、箱被ることとかあるんだよね。………あ、箱って、まあ、クラブのこと。ナンパ箱とか、音楽箱とかあるから、成人して友達と遊びに行くときはチェックしてから行かないとダメだよ?」
エレベーターの中に貼られてる居酒屋とか、スポーツバーのイベント告知とか、クラブのパーティ告知なんかのチラシを眺めながら、へーと頷く百合。
エレベーターは直ぐに目的の階に到着し、俺は百合を促してすぐそこの受付に声をかけた。
「湯葉さんにゲストとってもらってるんだけど」
「ああ、マートンか。早かったな。どーぞ。湯葉さん回すの24時ね。はい、どーも! ID見せてもらえる~?」
俺を外人の野球選手のような呼び方をする受付は、こっちにひらひらと手を振ると、階段を使って登ってきた新しい客へを声をかけた。
「えー、そんなん持ってきてないし」
「じゃ、無理だわ、ごめんねぇ」
「そんなこと言わないで!! せっかく来たのにっ!」
「いや、俺もねー、個人的には入れたげたいんだけどさ・・・」
そんなやりとりを背後にし、暗い廊下を進むのに、百合が俺の服の裾をちょんちょんとつついた。
「IDいるの?」
「そりゃまあ、ね。酒置いてるし、ダンスフロア入ってるから」
「でも、さっき、IDなんて出してない」
「ああ。今日のDJの中に知り合いがいるんだ。まあ、招待みたいなもん? だからタダで入れるし………」
言いながら分厚い店へのドアを開けたとたん、こもって流れてきてた音が、耳を壊すくらいの勢いで飛び込んできた。
「飲み物、どうする?」
百合は想定外の爆音に目を丸くして耳を押さえてる。
俺は片方の耳にあてた百合の指を数本はがすと、耳を寄せ、かすかに息を吹きかけること意識しながら、声を注ぎ込んだ。
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