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親の決めた関係
「ねえ、終電何時だっけ? それに合わせてここ、出ないと。送ってくよ」
後は適当にメール続けて、百合があの男と会って別れた後に家の近所で待てばいいや。そんでレンタルスマホを返却したら、ハイサヨナラ、だ。
そう思って切り上げようとしたんだけど、酒に目を潤ませた百合は繋いだままの手を離すことなく、俺に体をもたせかけるようにして口を開いた。
「私と彼はね、結婚するの」
いきなりの言葉。
はい?
百合に夢見る乙女の姿をさがしてみたけど、自分勝手な人生設計って訳でも無さそうだ。
「15歳の時に親が勝手に決めたことだったけど、好きになって………」
「ちょちょちょい待ち。親が勝手にって………は? いつの時代」
百合が俺の驚きを見て笑う。
その笑みは時代錯誤な我が身の立場を語る際、相手が驚くことを想定してた顔。
「私の姉なんか、18も離れた、お腹の出たおじさんと結婚したんだから。私は、一つしか違わない彼で、カッコよくて、彼も、私を好きになってくれて、ああ、幸せだなぁって。ふふ。変だと思うでしょ? でも、うちの学校に通ってる友達の中じゃ、そう珍しいことでもないのよ?
彼は政治家の息子さん。彼の家はうちのお金と地盤が欲しくて、うちは彼の家の力とか、家柄が欲しい。そういう結びつきが欲しいとき、結婚はね、便利なの」
「いや、まあそうだろうけど………」
ちょっと頭を整理しろ。
百合が15で婚約ってことは………あいつは16。高1? 高2?
「ここからは、嫁いだ姉に聞いた話。………優良物件は早めにおさえておかないといけないから高校や中学で結婚相手を決めてしまうんだけど、ただ、うちの父は優良だと思ってたのに実は欠陥があったなんてことになるといけないっていうので、彼に条件をつけたんだって。
旧帝大レベルの大学に入るのはもちろん、女に躓くようなことじゃいけないから、彼が18になるまで、私には手をださない。当然、他の女なんていうのは言語道断。女の影を見つけたら、即婚約は解消だって。
英雄色を好むなんていうけど、今のこの時世そんなものは通らない。たかが数年が守れないなら、先に女で失脚するって」
百合の口から語られる清澄の事情にフツフツとこみ上げる負の感情。
絆が清澄に犯されたのは、中学3年だって言ってた。
百合が15で婚約ってのは………そういうことだ。
男には手をだしちゃいけないとは言われませんでしたって、か?
はっ。"このはしわたるべからず"かよ。
何休さんだかしんないけど、トンチにもなんない。
「なんだそれ」
絆が棄てられたのは、清澄が18になったから。
彼女と、関係を持てるようになった、から。
なんだ、それ。
そんなこと聞かされたら………。
だろ?
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