誘惑の甘言

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誘惑の甘言

「彼の18歳の誕生日に彼の家に行ったの。初めてだから、不安でドキドキして。彼だって初めてなんだし、上手にいかなかったらどうしようって。  でも、彼は………初めてじゃなかったわ。直接言われなくても、流石に、わかるでしょ? 経験があるかどうかくらい」  騙されたって感じの、落胆の見える表情。 「でもそんなこと、誰にも言えないし」  女との経験は初めてだったんじゃないの? なんて言えないから、結果的にまたクソ野郎をフォローすることになる。 「気持ちよくしてくれたんだ? なら、いいじゃない。初めて同士でゴチャゴチャして、イいかどうかもわかんないよりさ。えっちは両方が気持ちよくないと」  百合はスッキリしない顔で、少し唇を尖らせた。 「自分以外としてたのが気に入らない?」  俺の問には何も応えず、唇を尖らせたままの姿が、酒に酔ってるんだと実感させる。 「でも、それで婚約を解消しようとは思わないんでしょ?」 「うん」 「お。寛大だな。俺なんてズルい!! って思っちゃうもん」 「………」 「向こうは約束破ってるかもなのに、俺は、一人しか知らないのに、ズルいって」  仕掛けるつもりなんて、さらさらなかったんだよ?  けど、あいつと結婚するなんて聞かされたから、浅ましくてゲスな俺が、動き出したんだ。 「このまま他の誰も知らないまま結婚して、でも、相手は他の体を知ってるっていうのが、なんかズルいーって」  組み合わせるようにして握ったままの手を宙に浮かせ、そこに視線をむければ、百合も同じくその手を見ていた。しっかりと意識させ、ゆっくりと言葉を練りこんでいく。 「それに……セックスの誘惑に勝てなくて、俺のこと裏切って他のやつと関係もったんなら、ひょっとしたら、今この瞬間だって別の誰かに抱かれてるかもしれないって疑ってしまう。  俺は、そいつしか知らないのに、他の奴に抱かれたかもしれないそいつをひたすら待ってるなんて、疲れる。結婚しても、そんな気持ちを引きずってしまいそう」 「………私だって………そう思ってるわ」 「婚約のこと。もういっかい考えなおすとかはないの?」  百合は俺の肩に頭を載せると、擦り付けるようにしてふるふると横に振った。 「彼と婚約を解消した、次の相手を考えたら………。あんな人、嫌だわ。浮気されなくても、あんなの、友達に笑われちゃう」  その次の候補が若干気にならないでもなかったけど、無駄な好奇心はこの際脇に置いておこう。
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