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火遊び
「政治の道に入ったら、もう女の人とは遊べなくなるんだし」
それはどうだろう。つうか、男と遊ぶかもよ?
口には出さなかったけど、俺のそんな心を少しは読み取ったらしい百合は、ふふっと笑った。
「彼の道が女の人でダメになったら、その時はいっぱい慰謝料もらって離婚するわ。そして自分で選んだ人と再婚するの。だから、私、結婚したら浮気は絶対しないの」
好きの上の打算。
ダメだよ、百合。
俺の罪悪感が、どんどん薄れていくじゃないか。
「………結婚したら?」
その部分を聞き逃すことなく聞き返す俺に、百合は俺の肩から顔を挙げて、小さく肩を竦めた。
「大学を卒業したら、すぐ籍を入れるの。………学校と部活しか知らないまま結婚してしまったら、きっと思うわ。なんで独身の間にもっといろんなことして遊んでおかなかったんだろうって。そしたらきっと、心にも余裕ができたはずだって。だから、コンパに誘われたとき、行ってみようと思ったの」
「楽しかった?」
絡ませた手の甲を、あやすように、指先で撫でる。
とたん、間に流れる空気が濃くなった。
「………うん。ライブとか、クラブとか、お酒とか」
「………お嬢様に夜遊び教えるなんて、どこのどいつだ? 悪いやつだな」
「うふふ。楽しいわ。知らないことばっかりで」
「もっと教えてあげたいけど………さすがに家に帰らないとね。パパとママに、殺される」
「………パパとママは………月曜の夜まで帰らないわ。じゃなきゃこんな時間に外には出てられない」
「はは。そりゃそうか。確かに塾って時間じゃないな」
「でも………家庭教師なら………大丈夫だと思うんだけど………」
「………出ようか?」
「うん」
思いのほか、長い夜になりそうだ。
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