擬似体験

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擬似体験

 髪を梳き、額や頬に唇を落とす。  あくまでも優しく、壊れ物を扱うように。  これまでの、期間こそ長くないけど数打った経験で思ったのは、男は体で、女は心でセックスするってことだ。  体を繋げる行為そのものに官能を覚える部分と、本命とは別の、女に不自由してない相手から一心に求められることへの、ヒロイックで背徳的な快感。  俺の勝手な思いこみだとしても、それは今までの俺の経験から導き出した思想だから、俺の中では真実だ。  そもそも合コンに顔を出す女は、例え彼氏がいて確固たる操をたててるようでも、モロい。  俺そのものなんて見てなくても、自分に共感してくれて、自分を女神のように崇め満たしてくれる、スペックの低くない男なら近づけてもいいと思ってる。    そして男を知ってる体なら尚のこと、女との経験豊富な男との情事に、愛とは無関係に興味を持ってる。  恋人への疑惑やアルコールが起爆剤になったとはいえ、まさに、今俺が組み敷いてる女が、それを体現してるだろ。  恋人が浮気したからって自分がする必要なんてない。  プライドと、好奇心。  百合の中にあるのは、それ。  要は、自分。  うん。  アンリママの言葉は正しい。  自分。自分。自分。  俺にあるのも、自分のことだけ。  だってさ、この女は───。  絆を抱いていた男に体を開かれた女なんだ───。 「彼氏は、こんな風に、君に、触れたの?」  肩から撫で下ろした指を胸元に差し込み、先端の突起に触れる。  男の体の下でピクンと跳ねる体に、絆の影が重なった。 「教えて?」  年上の女と二回目に寝たとき、胸を揉んだ俺に彼女が笑った。  何だと聞いた俺に彼女は前と同じ手順だったからつい、と。  若い子はさっさと挿れたくて型通りのおざなりの前戯をするから、テクニックを求めるならおじさんよね、と。  拗ねた俺に彼女はキスをして、でも、せっかちにされるのも欲しがられてるみたいで興奮するの、と言ったっけ。  言われて俺は、他の女を抱くときも、同じ手順だったことを意識したんだ。  なら、高校生だったあいつだって、そんなもんだろ?
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